Ranjit Barot – Bada Boom(2010)

Ranjit Barot は、インド人の音楽プロデューサー&ドラマー、という肩書になるらしい。
僕は、Abstract Logix レーベルの所属ミュージシャン大集合ライブ DVD で初めて彼のドラムに出会い、一発で大ファンになった次第。
因みに Abstract Logix というレーベルは、John McLaughlin 関係というか、Shawn Lane & Jonas Hellborg 関係というか、欧米+印の世界一周大集合的ハードフュージョン系のミュージシャンが集うところであり、Ranjit Barot の音楽はまさにその路線にある。本作は彼のソロ第一作らしい。

Tr.1 Singularity
このアルバムは曲名が宇宙物理学的で面白い。Singularity(特異点)とは、時空連続体の始まりと終わりを示す意味があり、他の T = 0 や Origin とも通じる。
アルバム名の Bada Boom も、英語で言うと Big Bang の意味らしい。
曲調はストリングスもまじえた大爆発ハードフュージョン大会であり、まさに宇宙誕生の趣き。
大傑作アルバムの幕開けの曲として何ともふさわしい。

Tr.2 T = 0
原曲はインドのトラッド曲らしいのだが現代的かつ見事なアレンジ。
曲名の T = 0 は、多分、物理学等で言うところの「時間起点」を意味するのだと思う。
つまり、Tr.6の Origin と同様に、いわば自身の音楽史の原点を意味するのではないかと想像する。
フルートとギターによる爽やかな導入部はちょっとブラジル音楽のような趣きも感じるが、シタール風ギターやタブラ等が入ってくるにつれて、次第にインド方面へ。そしてストリングスがラーガ風のフレーズを奏で、リズムが倍速にシフトし、一気に盛り上がる。
圧巻なのは Mark Guillermont のギターソロ。いやあ、このアルバムで初めて知ったプレーヤなのだが、この短いソロを聞いただけで本当に涙が止まらなくなり、急いでソロアルバムも購入した次第。
いわゆる Holdsworthy としても有名らしいのだが、むしろ Passport レーベルがあったころの Scott Henderson みたいな感じの、切なくて、色気たっぷりの伸びやかなトーンが特徴。トレモロアームの使い方も似ている。絶妙なフレージングも素晴らしいが、出音のコントロールというか、いわゆるアーティキュレーションが素晴らしい。
そして、この素晴らしいギターソロの背景でリズムセクションが送り出す複雑かつ精妙で生命感溢れるパルス、このあたりがインド音楽DNAの真骨頂だろう。
こういう曲に出会うと、生きていて良かったと感じる。

Tr.3 Revolutions
この曲のハイライトは、Ranjit Barot が欧米の楽器であるドラムセットを用いて、インド音楽のリズムイディオム(まるでタブラのような)を叩き出す、その凄まじいテクニックにある。
欧州由来の音楽では、リズム、メロディー、ハーモニーが音楽の三要素等といわれるが、インド伝統音楽ではその中でも特にリズム理論が複雑な進化を遂げた。アフリカ由来のラテン音楽も高度かつ複雑なリズム構造を有するが、やはりインド音楽がその頂点にあると私は思う。
そのインドの伝統的リズムパターンを組み合わせた超高速フレーズを、精確かつパワフルなドラミングでシミュレートし、タブラと寸分の狂いもないユニゾンを聞かせる。ドラムプレーヤとしても凄腕。
曲名は「革命」。古いものを破壊的に融合して新しい何かを生み出すということかな。
次の Supernova にも通じる。

Tr.4 Supernova
曲調はしっとりとした夜の感じ。ボーカル入りのムーディーな一曲。
曲名は超新星爆発の意味。星は最後に爆発し、構成物質を宇宙空間に散乱して死んでいく。
しかしその物質がまた集合して新たな星が生まれていく。

Tr.5 Dark Matter
曲名は暗黒物質ときたもんだ。

Tr.6 Origin
まるでインド風味の Zawinul Syndicate である。
Scott Kinsey によるちょっと軽薄な「ッパッパラリラリ」という煽りバッキングとZawinulをイタコで降ろしてきたようなまんまのボコーダボイス、そして Wayne Krantz のクネクネと絶妙なギター、だがしかしここで特筆したいのは Ranjit Barot の vo である。
このおっさん、ほんといい声してるわ。
その容姿もあいまって、怒鳴る土方か、叫ぶ漁師か、はたまた北海のトドかという雰囲気であるのだが、とかく無機的になりやすいエレクトリックジャズに、しっかりとした肉体感を打ち込むことに 成功している。
曲名の Origin は、多分、自身の音楽的原点(JazzとIndianのFusion)を意味しているのだろう。

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