Agents of Mercy – The Fading Ghosts of Twilight(2009)

例によって、リリース年別インデックスの埋まっていないところをチェックし、今回は2009年を埋めるべく拙宅のライブラリを検索。
Transatlantic の The Whirlwind(2009) という大傑作もあるが、先日彼らの新作をレビューしたばかりなので少々気が進まず、じゃあ Roine 繋がりで、こっちにしようと本作を取り上げた次第。

Agents of Mercy は、The Flower Kings(TFK) の Roine Stolt によるプロジェクト。本作の後にあと2作の作品をリリースしているが、固定メンバーと言えるのは Roine と、ボーカルの Nad Sylvan の2名のみで、その他はアルバム毎、曲毎に入れ替わるゲストだ。本作にはTFK のメンバーもゲストで参加しているよ。
2009年と言うと、本家の TFK は The Sum of No Evil(2007) リリース後少々勢いを失い、次作の大傑作 Banks of Eden(2012) まで休止状態に入っていた。その一方、Roine は前述の Transatlantic や本作を含めスーパーなプロジェクトを次々と始動させていた時期。
この、親元バンドが煮詰まった(のかどうかは定かではないが)ときに、新しい面子を入れて様々な組み合わせの子プロジェクトを並行稼動させ再生を試みるというやり方は、辣腕経営者 Robert Fripp 社長が経営する King Crimson の方法論(ProjeKct)と似ている。生物の進化を真似たプログラミングテクニックである「遺伝的アルゴリズム」って奴にも発想が似ていて面白いな。

さて、本作の参加ミュージシャンであるが、前述した通り中核となる固定メンバーは発起人の Roine Stolt(g, b, kbd, vo) と Nad Sylvan(vo) の2名。以下、曲毎に入れ替わるゲストを楽器毎にまとめる。ds は Pat Mastelotto(King Crimson), Jimmy Keegan, Zoltan Csörsz(TFK) の3名。b は Jonas Reingold(TFK) が一部弾く以外は Roine が弾いている。kbd は、Biggo Zelfries が全曲参加。この人はバイオリンも演奏している。
作曲は全て Roine による。なので、Agents of Merrcy は Roine のソロプロジェクトだと考えて良いだろう。

Tr.1 The Fading Ghosts of Twilight
アルバムタイトル曲。
端正でかつ憂いに満ちた曲調、ミドルテンポでクラシカルなリズム、鼻にかかった発声のシアトリカルなボーカル。そう、TFK がどちらかというと YES 的な方向性だとすれば、本作は Genesis 的アイコンに満ちている。
ds は Jimmy Keegan 。クレジットによれば Roine が b を弾いているのだが、これが結構うまい。

Tr.4 Heroes and Beacons
しっとりした佳曲。
b に Jonas Reingold(TFK)、ds に Pat Mastelotto(King Crimson) が参加。
Roine の b もなかなか上手いけど、やはり Jonas の歌うようなフレットレスは別格。
そして技巧者 Pat のパーカッション的ドラミングもさすが。
ドラマチックな盛り上がり、ドリーミーな展開。昔っぽく懐かしい曲調と、最新の機材によるクリアな音色。TFKが好きならオススメできる間違い無い高水準の音楽。

Tr.5 Jesus on the Barricades
b は Jonas、ds に Zoltan Csörsz(TFK) を迎え、いよいよ TFK 濃度が高まる。
ゆったりとした三拍子、歌うフレットレスベース、ジャジーなドラミング。
短い曲だけど、夢のように素晴らしい。

Tr.7 A Different Sun
ds は Pat、b は Roine 。
Nad と Roine によるボーカル(コーラス)アレンジが超絶的に美しい。
そして、歌伴やらせたらやっぱり Pat のドラミングは最高水準。自らも歌うように叩く。

Tr.8 Ready to Fly
Jonas と Zoltan が参加。そして、導入部のメインボーカルは Roine がとり、もうほとんど TFK になる。同じ面子で Tr.8, 9, 10と盛り上げていく。

Tr.10 Soldier’s Tale
12分近い長尺曲でアルバムの山場を迎える。
メインボーカルの役割はここでやっと Nad に返却。
4:00頃のギターオーケストレーションが、何だか Brian May っぽくて楽しい。
そして Zoltan のドラミング!この人は本当に上手い。歴代のTFKのドラマーの中でも技巧面では最高じゃないかな。Jazz っぽいセンスもあって、しなやか。

Tr.12 Mercy and Mercury
ds は再び Pat に。
Tr.1の旋律がところどころ顔を出し、Nad がシアトリカルに、ややヒステリックに歌い上げる、アルバムの終曲。
曲の後半はドラマチック大盛り上がり大会に。そして、長い長いフェードアウトを経て、静かに終わる。

本作を世紀の大傑作とまでは言わないが、現代プログレ好き、TFK好きなら是非聴いてみていただきたい、素晴らしいアルバム。

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