Peter Gabriel – i/o(2023)

2023年末近くになって今年最大の大作、真打登場。
Peter Gabriel 御大渾身のアルバム i/o のご紹介。

まず何が凄いって、アルバム発売までの1年間に亘り、毎月1曲ずつYouTubeやストリーミングで曲を公開していくというプロモーションに驚いた。
もう少し詳しく言うと、毎月の満月の日に発表された12曲はアルバム中で Bright-Side Mix と呼称されるバージョンで、Mark ‘Spider’ Stent がミックスしたもの。
そして同月の新月の日には同じ曲の Dark-Side Mix と呼称されるバージョンが公開された。こちらは Tschad Blake がミックスしたもの。
なお、僕が購入したアルバムはCD2枚に加えて Blu Ray Disc(BD) 1枚が付いてくる豪華バージョンなんだが、このBDにはなんとなんと各曲の更に異なるバージョン In-Side Mix がハイレゾ・マルチチャネル(※1)で収録されているのだ。この In-Side Mix は、空間オーディオ(Atmos)化も含めて Hans-Martin Buff が Mix を行い、かつ一部の楽器(Perc等)のオーバーダブまでやってるよ。
(※1 正確に書くと、BDには、
In-Side Mix : Dolby Atmos trueHD 7.1ch 24bit 48kHz (Lossless)
In-Side Mix : AC3 5.1ch 16bit 48kHz (Lossy)
Bright-Side Mix:24bit 48kHz(Lossless)
Dark-Side Mix:24bit 48kHz(Lossless)
の4つのオーディオトラックが収録されている。)
つまり、12曲を3通りのMixで聴くことができるのだよ。
Mix違いといってもちょっとトラックの音量バランスを変えてEQを利かせた程度のものから、勝手に?曲をぶった切ってExtendしたり楽器も派手にオーバーダブしたりするもの(ZTT流)まで色々あるわけだが、本作の Bright-Side と Dark-Side の違いはもう少し節度ある精妙なもので、その名の通りカラー、肌触りが異なるという印象。
一方で、BDに収録された In-Side Mix の方は、上からギターやパーカッションが重ねられていたり、結構手が入っているので差がわかりやすくて面白い。

さて参加ミュージシャンだが、Peter Gabriel(PG) 以外のメインとしては、
Manu Katche(ds)
Tony Levin(b)
David Rhodes(g)
のいつもの顔ぶれが参加している。この4人はほんとに仲が良いんだよね。
以上4人に加えて、Real World Studio 専属ミュージシャンなのかな、Richard Chappell、Oli Jacobs、Katie May、Rioghnach Connolly 等がちょっとした楽器やエンジニアリングでサポート。
更に、一部の曲では John Metcalfe が指揮する New Blood Orchestra や、Soweto Gospel Choir 等が参加する豪華な仕上がりになっている。

Tr.1 Panopticom
Up(2002)あたりと近いサウンド。
Manu Katche の甲高くパーカッシブなドラム音。
Tony Levin の腹に響く重低音ベース。(Stick では無く、例の右手の人差し指と中指に金属パイプをはめて叩く奏法だろう)
David Rhodes のでしゃばらないギター。
彼らの背景には、Katie May のアコギや、Brian Eno によるシンセサウンドが聞こえている。
独特の残響効果、不思議なSE音、スタジオエンジニアリングの贅を尽くしたサウンドメイク。
とても人工的な音なのだが、そこはこの道の達人達による仕事なので、できあがったサウンドはとても生々しく切ない。

Tr.4 i/o
アルバムタイトル曲。
自分は全てのものの一部、命が自分に入り、そして自由に出ていくと歌う。ちょっと仏教的。
終盤のサビのコーラスで、Soweto Gospel Choir が参加している。
蛇足だが、この Soweto ってのは南アフリカ共和国にある地域の名前。
PGが戦ってきたアパルトヘイトを象徴するような場所。

Tr.5 Four Kinds Of Horses
数多くのパーカッション(主にベル類)がガムラン的に鳴り続ける中を、Tony Levin の重低音とともに、ブォンという不思議な響きのシンセ音が横切っていく。
Manu はお休みで、PG他によるリズムプログラミング。
バックvoに、PGの愛娘 Melanie Gabriel が参加している。
そして何といっても、魂を鷲掴みにする New Blood Orchestra の効果がもの凄い。

Tr.6 Road to Joy
この曲は楽しいよ。
全体的にしっとりとした曲が多い本作の中で、これは Sledge Hammer みたいに元気な曲。
Brian Eno が曲作りに全面的に関わっている。
普通のbの Tony Levin に加えて、Don E (英国のソウル/ヒップホップミュージシャン)によるシンセベースがもう縦横無尽に飛び跳ねて元気さ100倍。

Tr.8 Olive Tree
サビ部分のホーンセクション(tpとsax以外はシンセだと思う)がソウルフルで楽しい。
疾走感溢れるパートで、ふと Pat Metheny のシンクラビアギターがここに入ったらもう最高だなあとか考えた。
多分バックのシンセによるウォールオブサウンドが、Lyle Mays を想起させたからだと思う。

Tr.12 Live and Let Live
自分が生き、そして相手も生かすこと。
相手を理解し、許すこと。
目には目をの連鎖を断ち切ること。
PGは昔から一貫して、決して絶望することなく、戦いを終わらせるための歌を歌い続けている。
決して簡単なことではなく、大変な努力と勇気が必要。
だからこそ未だに実現されてはいないし、実現される日は現実的には来ないのかもしれない・・・のだが、でも、それでもPGは諦めることなくいつまでも歌い続けるのだ。
名作アルバムの最後を飾るに相応しい素晴らしい曲。

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