クリスマスあたりにレビューを書くならこのあたりが良いかなあと考えていたのに、ぼーっと日々を過ごすうちにたちまち大晦日になってしまったので、慌てて書く・・・。
スウェーデンの Prog バンド Moon Safari のスタジオアルバム3作目 Lover’s End(2010) と、その後にリリースされた Lover’s End Trilogy(2012) を合体したリリースが本作 Lover’s End Complete Edition だ。
さて何よりも最初に一言書いておく。アルバムジャケットは気にするな。CDの中身はとても素晴らしい極めて高水準のプログレッシブ・ロックだ。この子供の落書きのようなジャケットに騙されてはいけない。絶対このジャケット絵で損しているよなあ。まあ何度も見ているうちに、これはこれで段々と味が出てくるんだけどね。
彼らの音楽を一言で言うならスーパーワンダラスなコーラスが付いた The Flower Kings という感じだ。他にプログレ版ビーチボーイズとか、青春系プログレとか雑誌等で様々な表現を見かけるが、まあどれも大事なポイントは突いている。ポジティブでドリーミーな演奏に乗せて、驚くべきコーラスを聴かせるという、他にはなかなか類を見ないユニークなバンドなのだ。
本作のメンバーは、 Simon Åkesson(kbd, lead vo) / Pontus Åkesson(g, vo) / Sebastian Åkesson(kbd, vo) / Johan Westerlund(b, vo) / Tobias Lundgren(ds, vo) / Petter Sandström(g, lead vo) の6名。Simon、Pontus、Sebastian の3名は兄弟だ。そして全員が vo であるところに注目。これが Moon Safari の最大の特徴であり武器である重層コーラスの正体。それともう一つ驚きの事実があって、彼らは全員ミュージシャン以外の職業(正業?)を持っている兼業音楽家なのだ。何とも凄いね。
Tr.2 A Kid Called Panic
g とシンセのドリーミーなイントロから始まり、まるで The Flower Kings のようだ。でも素直で伸びやかなリードボーカルと、高度にアレンジされた分厚いコーラスが始まると、ここはもう Moon Safari ワールド。どうしたってコーラスに耳が行ってしまうのだけど、バックの演奏も超一流、楽曲構成も良くできていて14分近い長さを一切飽きさせない。
Tr.3 Southern Belle
アカペラコーラスの荘厳なイントロから始まる。そしてピアノをバックに独唱、最後はしっとりと終わる。年の瀬にしみじみ聴くのにぴったりだ。
Tr.4 The World’s Best Dreamers
前曲に引き続いて、プログレ成分は少なめだが、美しく微笑ましくとても素敵な曲。一連の歌詞の一部をコーラスが唄い、そこから続けてリードボーカルが唄うスタイルが面白い。普通コーラスって、歌詞の一部を繰り返したり、コーラス用の別のセンテンスを唄ったりするのが多いと思うが、交互に一連の文として繋がって唄うんだよ。
Tr.6 Heartland
イントロのメロトロンを聴いただけで、プログレ好きは感涙だな。
跳ねたリズムと変拍子、そして躍動的なシンセで、まさに王道のプログレ曲。
Tr.7 Crossed The Rubicon
この曲が僕のお気に入り。
イントロの不思議なキラキラした感じがクリスマスを連想させるというか、サンタのソリを引くトナカイさんのシャンシャン音を思い出させる(アコギ音だけど)。
サビの “Movin’ on – But sleeping the day away, Movin’ on – From all of my thoughts today” のところで、もうたまらなく涅槃に行ける。
歌詞の内容は、何やら日常と恋人に勝手に別れを告げてどっかに旅立っちゃう心境を唄っているみたいだ。ルビコンを渡るという曲名から決心のほどを窺える。結構自分勝手なひどい奴にも思えるが、曲が素敵過ぎて気にならない。
さてこの曲のハイライトは5:49から。流れるようなオルガンに続いて、教会のベルのように鳴り続けるギターリフ、どんどん盛り上がる重層的なコーラス、そして決然と唄い上げるハイトーンボーカル。
作曲は Simon Åkesson、驚異的な才能だ。
Disc2 Tr.1 ~ 3 The Lover’s End Pt.1 / 2 / 3
元々アルバム Lover’s End に収録されていた part1、part2 に、新たに part3 を書き加え、アレンジも少し変えて収録した Lover’s End Trilogy だ。
最初にオリジナルの Lover’s End を買って聴いたときに、Tr.1のpart1で始まり、Tr.8のpart2で終わるのだけど、正直この2曲の位置付けにピンと来なかった。特に最後のpart2ね。まったりした短い曲なので、何らかの間奏曲としか思えず。それがトリロジーになって、初めてしっくり来た。やはりpart2は間奏曲であり、壮大なpart3によって完結する。
最後の4分くらい凄いよ。Roine かと思うような素晴らしいギター、映画のエンドロールのような泣かせるライン、怒涛のように盛り上げるストリングス、そしてピアノに導かれて格調高く終わる。
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