Norway の Jazz ギタリスト Eivind Aarset の出来たてほやほやの新作が今日届いたので取り上げる。
この人は Nils Petter Molvær(NPM) のソロ諸作への参加で有名。
2018年のNPMの来日(Bluenote Tokyo)にも同行してくれたので僕は Eivind のご尊顔を拝することができたよ。
Eivind のギターサウンドと言えば、とにかく多数のエフェクタを用いておよそギターらしくない不思議な音響やノイズを空間にばらまくプレイが特徴。実際にライブ演奏を見ていると、ギターを弾いている時間よりも機材をいじっている時間の方が多い。しかも出音がヤサグレているというか、いわゆる暴力的なサウンドで、David Torn あたりとも共通点が多い。
ところがこの新作は面白いよ。ヤサグレていないのだ、ちっとも。
NPM御大もずいぶん油が抜けた渋いサウンドを出すようになったし、Eivind ももう還暦過ぎたからね。年相応に円熟した今の心境のサウンドなのだろうと思う。
参加ミュージシャンを紹介する。
Audun Erlien(b) / Erland Dahlen(ds, perc) / Wetle Holte(ds, perc) / Eivind Aarset(g) の4名が基本メンバー。そして本作は Eivind 個人ではなくクアルテット名義。
Erland はNPMの最近の作品の常連。他の2名はよく知らない。
Tr.1 Intoxication
曲名は「酩酊」あるいは「中毒」みたいな意味。どっちなんだろう。
ゆったりとしたワルツのリズム、生っぽいドラム(音数も控えめ)、そして驚くことに Eivind が爪弾くクリーントーン(!)のギター。それらの背景には数え切れないほどのエフェクト音、ループ音等が鳴り響くのだが、それらも存在感は控えめ。
5:00頃から Eivind の歪んだソロ。ディープサウスのブルーズメンみたいな深淵な音。
とても心地よくうっとり聴いているうちに8:26の曲はあっという間に終わる。
この曲で不思議な旅は始まる。
Tr.2 Pearl Hunter
前曲の雰囲気を引き継いて、5拍子のゆったりした進行。生っぽいドラムとクリーンなギター。
次第に音数が増え、海洋生物の鳴き声みたいなSEが加わり、静かにドラマチックに盛り上がってくる。
5分を過ぎたあたりからツインドラムが迫力を増し、キターと思っているうちに曲が終わる。
Tr.3 Outbound [Or] Stubb1
本作の中では少しエモくロック寄りな曲。
激しいドラム音に歪ませきった Eivind のノイズギター。
でも曲調は醒めており、切ない。
Tr.5 Manta Ray [Or] Soft Spot
ゲストとして John Derek Bishop(Field Recording) / Jan Bang(Sampler) / Arve Henriksen(tp) が参加。
不思議な可愛さとドリーミーな美しさを持った曲。
ゲストの tp が実に表現豊か。歌うように語るように。
この曲でもTr.2と同様、海洋生物のようなSEが加わり映像作品のようだ。
Tr.6 Didn’t See This One Coming
これもロックっぽいかな。
疾走感強めのツインドラム+ベースをバックに、強く歪ませて、ワーミーペダルか何かを通した Eivind のブチ切れ速弾きギターソロが炸裂する。
Tr.9 Light On Sanzu River [Or] Dreaming Of A Boat
まず曲名が凄い。三途の川に光が差し、そして渡し船の夢を見るのだ。
この旅は彼岸へと向かう旅だったのだろうか。
荘厳なサウンドスケープと、祈りのようなギター。
どこかに連れ去られるような強い異化作用を持った、とても美しく切ない曲。
静かに、静かに、祈るように終わる。
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