ドイツからEveron の Oliver Philipps(g, kbd, vo)、オランダから Delain の Charlotte Wessels(vo)、オーストリアから Serenity の Georg Neuhauser(vo) と、シンフォプログレメタル界の有名どころが集まって制作したプロジェクト Phantasma の、今のところ唯一の作品だ。
Delain も、Serenity も、Oliver がプロデュースに関わっているので、そのご縁かと思われる。
Everon も嫌いじゃないのでたまに聴くのだが、Oliver Philipps が書く曲って、少ししつこいというか大仰すぎるところがあって、もうちょっと肩の力を抜いてもいいんじゃないとか思うことがある。ところが本作では、シンフォ界屈指の上手い男女ボーカル2名を得て、多少大仰なアレンジがむしろ丁度良くバランスしている。
次に天才娘(当時)Charlotte だが、本作制作にあたりまず短編小説 “The Deviant Hearts” を書き上げ、その物語に沿って作詞し、のみならず一部の曲では作曲にも名を連ねている。名を連ねるどころか、Tr.3は彼女一人で書いているようだ。歌い方も Delain の作品とは少し変えているようで、R&Bやミュージカル等のような落ち着いて艶のある歌声だ。
中核3人目、Georg も上手いね。まっすぐ素直な声を持っており、ピッチもパーフェクト。Serenity は僕には曲があまりぐっとこないのであまり聴かないのだが、彼の声は素晴らしい。
以上3名のコアメンバーに加えて、Randy George(b) / Jason Gianni(ds) のリズムセクションと、一部の曲でゲストvoが数名加わる。
さて本作を無理やりジャンル分けするならばシンフォメタルの亜種ということになるかと思うが、メタル的な要素は曲の一部で意図的に使われるものの、全体的にはしっとり落ち着いたバラッドやボーカルロックが多くを占めており、むしろミュージカルや短編映画のサウンドトラックのような感覚を覚える。全体を一つのストーリーが貫いているからそう感じるのかもしれない。
Tr.1 Incomplete
Oliver のピアノをバックに、Charlotte と Georg が静かに歌い上げるバラッドで本作は始まる。曲の最後に遠い花火の音。本作を通してところどころ花火の音が効果的に使われる。
Tr.2 The Deviant Heart
アルバムタイトル曲であり、小説のタイトル曲。
Oliver によるオーケストレーションが重厚で壮大。でも少ししつこい。
Oliver の g ソロも流麗で、いつもの Everon 節だ。で、少ししつこい。
この少ししつこいけど分厚いトラックをバックに、華のある男女ボーカルが歌い上げる。本作では曲毎に静と動が明確に分かれており、この曲は動の部分だ。
Tr.3 Runaway Grey
Charlotte が作詞・作曲。凄い才能だね。
もうシンフォでも無く、メタルでも無い、上質な Pop に仕上がっている。
Tr.4 Try
これも Oliver のピアノをバックに、静かに歌い上げるバラッドだ。
Charlotte は、声を少しかすれさせたり、軽くこぶしを回したりしていて、R&B(昔のじゃなく、今のね)っぽい歌い方だ。Georg のパートの後では、まるで Celine Dion かと思うような、凄い発声をしているぞ。
Tr.5 Enter Dreamscape
Oliver 作曲。ちょっと演歌っぽいというか、ミュージカルっぽいというか、ある種のお芝居臭い感じを伴う曲だ。オケアレンジは王道のシンフォ(というか Nightwish 的)、バッキングの g もメタルなんだけどね。
Tr.7 The Lotus and The Willow
Charlotte と Oliver の作曲。この曲でも Charlotte の才能が見事に開花している。後半のブリッジ部で Oliver の見事な g ソロ。
Tr.8 Carry Me Home
物語はいよいよ終盤に近付く。感動を盛り上げる Oliver の g から曲が始まる。
曲調が80年代頃の上質なアメリカンハードロックポップみたいな感じで、Heart とか Journey とか思い出して懐かしい。
Tr.9 The Sound of Fear
この曲も、80年代アメリカのロックバラードみたいだ。男女voの掛け合い、転調やテンポチェンジの挟み具合、全て良くできていて完成度が高い。
Tr.12 Let It Die
そして圧巻の大団円だ。本作に佳曲は多いが、僕はこの曲がお気に入りだ。
欧州らしいメロディー、壮大なシンフォ、そして圧巻なのが Charlotte の声。力と美を兼ね備えている。
3:22頃、サビの途中で転調し、Georg のパート。ここの彼の声も素晴らしい。まっすぐどこまでも上っていくような美しい声だ。そんじょそこらのメタルシンガーに出せる声じゃないよ。
曲の最後、Tr.1 Incomplete のメロディーを Charlotte がハミングし、円環構造になって終わる。見事な構成。
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