Richard Wright – Wet Dream(1978)

本作リリース直後にFM番組で聴いて惚れ込み、LPからCDと買い直して今まで聴き続けているお気に入りの1枚。
Pink Floyd のオリジナルメンバー Richard Wright のソロ第一作だ。
Pink Floyd 在籍中はずっと過小評価され、ついには The Wall の製作中に Roger Waters によって解雇され、でもその Roger も Pink Floyd を去り、Richard はバンドに戻る。David Gilmour、Nick Mason、Richard Wright の3人で制作した新生 Pink Floyd の諸作品は、過去作のような大ヒットこそ飛ばさなかったが、いずれもしっとりとした情感に溢れた英国らしい佳作だ。2008年に Richard は癌でこの世を去ったが、残された2人が制作した The Endless River は、Richard に捧げられた素晴らしい作品となった。
Pink Floyd の音楽は、フロントメンの Roger や David の個性や激しい音が確かに目立ってわかりやすい特徴となっているわけだが、実はそれらの音の背景に Richard の憂いと湿度感に満ちたオルガン、シンセ、ピアノの音が常にしっかりと存在していて初めて成り立っている。その意味で、Richard こそが Pink Floyd サウンドの核だったとも言えると思う。だから、The Endless River リリース後に David は、Richard 無しでは最早 Pink Floyd は存続し得ないと断言したのだ。
さて本作のメンバーだが、Richard Wright(kbd)、Larry Steele(b)、Reg Isadore(ds)、Snowy White(g)、Mel Collins(sax, fl) という顔ぶれ。Snowy は Pink Floyd のサポート g としてもうお馴染みの方、そして Mel は英国プログレ界を代表する名サキソフォニストだ。
本作の特徴を一言で言えば、派手なフロントメンのいない Pink Floyd だ。狂気を伴わない孤独、攻撃せずひたすら受容と諦念、悪く言えば動が無く静だけ、ネタが乗っていない寿司(これはひどいな)。でも、これが実にじわじわと、そしてぐっとくるのだ。

Tr.1 Mediterranean C
「地中海」の sea を C にしたタイトル。音名だろうか。
確かに出だしの音は、C-D-E♭m-Dの進行。意味深なタイトルなんだが、何だろうね。
このCのコードには、なんとも言えない肯定感があるなあ。そしてCからDに並行移動し、何かの変化の兆しを感じさせて、E♭mのところで緊張感が高まるも、またDに戻って緩和。その繰り返し。決して大きくは盛り上がらないのだけど、このイントロだけで小さなドラマを感じる。
ゆったりと繰り返す地中海のさざなみのようなバッキング、情感溢れる Mel のsax、金管のような Snowy の g、そして抑制が効いた彼の g ソロ。とても穏やかな気分にさせてくれる素敵なオープニングナンバーだ。

Tr.2 Against the Odds
Richardの最初の妻 Juliette Wright が詩を書いている。歌うのは Richard。これが上手くも下手でも無く、実に普通なのだが、演奏に溶け込んで実に丁度よい響きなのだ。
そしてこの歌詞が実に心に沁み入る。疲れた時にふと聴きたくなる、そんな曲だ。
曲もケレン味は皆無、コード進行がとても Pink Floyd だ。というより、Pink Floyd の曲って、結局 Richard が骨格を支えていたことが良くわかる。

Tr.5 Waves
比較的淡々と進行する本作の中で、中間の山場というか、まあ要するにA面の最後の曲だ。
タイトル通り、大きくゆったりうねるバッキングの上で、Mel が朗々と吹く。ちょっと Camel を思い出す。英国らしい、Canterbury Music 的な響きだ。
最後は、Richard のオルガンと Mel の sax だけで荘厳に終わる。

Tr.9 Pink’s Song
タイトルからは、Pink Floyd からの解雇に至る Roger との確執が思い浮かぶ。詩の内容も、息をつく時間が欲しいとか、切実な感じだ。

Tr.10 Funky Deux
ここでちょっと曲調が変わり、上質な Jazz-rock となる。
Snowy の g はちょっとロック過ぎて違和感があるが頑張っている感じ。そして Mel は、こういう曲を吹かせると、もう文句なしにはまるプレイをする。
この曲で本作は終わる。ヒットチャートに上る曲なんて皆無。ボーカル曲は鬱っぽく、インスト曲は上品だがスリリングなプレイなんて全く無し。でも時々何故か聴きたくなって、気がつけばもう40年も聴き続けている。そんな特別な1枚。

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