Pain of Salvation – Panther(2020)

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天才 Daniel Gildenlöw 率いる Sweden のロックバンド Pain of Salvation の新譜、リリースほやほやを紹介する。僕にとって思い入れが極めて強いバンドなので、長文になることをお許し願いたい。

この Pain of Salvation (POS) というバンドの音楽をジャンル分けすることほど難しく、また無意味な行為は無いだろう。Prog Metal の文脈で語られることが多いが、意図的に幅広い要素をミックスした音作りなので、困り果てたジャーナリズムはミクスチャーロック等と呼んで誤魔化したり。

さて、本作は前作 In The Passing Light of Day(2017) から3年を経てリリースされた。
前作のテーマは「生と死」だった。
Daniel 自身が生死を彷徨う大病(人食いバクテリア)から生還した体験に基づく。
今回のテーマは、アダルトADHDであると診断された自身(及び自身のような人達)と、取り巻く「その他のノーマルな人達」との対比。歌詞の中では a panther in dogs world と表現されている。
インタビューで彼自身が以下のように詳しく説明していた。
F1カーを街中に持ってきても安全に走行なんてできない。それはF1カーが壊れているのではなくて、ある状況(レース場)では最優秀に働く機能が、他の状況(街中)では機能不全に陥るからであると。
また、彼は自身をかつて動物園で会った豹(Panther)に見立てている。人類(ノーマルな人達)がこの世を支配しているが、豹と観覧席を隔てるガラスの壁を取り去ったら、果たしてどっちが生き残るか。
歌詞の中では、子供の頃から「普通になろうと」努力し、それができなかった辛さであるとか、周囲の親しい人から「自分の話を聞いていない」と注意されて「そうではない。僕は君の声も含めて全ての音を聞いている。マルチスレッドなんだ。」とか、自身があまりにも高速に考えるため周囲の人がついてこれない苦悩等について、まるで自伝のように語っている。
そう、本作は形式上POSの新譜ではあるが、ほぼDanielの自伝なのだ。
F1カーでありPantherであるDanielは、個体としては高機能・超優秀なほんまもんの天才なのだが、ノーマルな人が形成し管理するdogs worldにおいては、ポンコツ扱いされて生き辛いのだ。

本作のメンバーは、Daniel Gildenlöw(lead vo, g) / Johan Hallgren(g, vo) / Léo Margarit(ds, vo) / Daniel Karlsson(kbd, g, vo) / Gustaf Hielm(b, vo) の5名。
何よりも Johan Hallgren が戻ってきてくれたことが心から嬉しい。他の4名は前作から継続。

Tr.1 Accelerator
大胆に Electrica 的なサウンドを導入・・・みたいなことは、まあどうでも良いのだ。
「問題児代表」としての高らかなる宣言。
街が燃え盛っているのに、君たちはいつまでも議論している。
ノーマルな人達がノーマルな代表を選んで付いていく。そこに問題があるんじゃないの?
ぶっ壊れた世界を直すには、俺たちをうまく使えよ。
といったような過激な内容だ。

Tr.3 Restless Boy
あまりにも遅い世界(思考速度が遅い人達)の中で、コミュニケーション不全に苦悩する自身を歌う。
この曲では ds に注目。
Verseの部分でのドライなサウンドは、Leo 曰く、ドラムマシン的な音を狙ったとのこと。
そして Chorus パートではビッグ&ラウドな音に切り替えて、バスドラを全ての単語の頭で連打するという離れ業をやってのけている。

Tr.4 Wait
POS史上に残る美しいバラッドが誕生した。
Verseの2回めで、これは Auto-tune なのかな、ボーカルを機械っぽく変化させていて、もう何だか痛々しくて涙が出てくる。
いつまで待ってくれる?僕が僕になるまで、物事が正しくなるまで。

Tr.5 Keen To A Fault
Techno だねえ。ほんと芸達者な人達だ。
曲調がちょっと、Kevin Moore みたいな感じ。
歌詞の内容は、ノーマルな君に合わせて自身の思考や行動を制限する苦痛について。
君から見ると僕は、注意散漫ですぐ失敗するポンコツに見える。でも君のやり方に合わせると、僕は余計にポンコツに感じるよ。何故なら僕はマルチスレッドで高速に思考する、人間界における Panther なのだから。

Tr.7 Panther
前曲の FUR(毛皮) でフォーキーに「俺は豹だ」宣言をした後、Techno っぽいイントロとワイルドなラップで本曲が始まる。
Danielがかつて動物園で出会った豹(Panther)の視点になり、この世界を支配するお前たちでいるということはどういう気分なんだい?と問いかける。自分の方が、驚くべき筋肉を優雅な毛皮に包み、個体としては圧倒的に優位であるが故に。
彼女(今の奥さんなのかな)から、「あなたでいるということはどういう感じなの?」と聞かれ、犬の世界に囚われた豹の気分さと答える。

Tr.8 Species
Panther に自己一体化した Daniel は、ついには人類という種について考え始める。
林の中で瞑想し、多くの種(species)が生き、糧を得ている世界について思いを巡らす。
一方で、愚かな過ちを繰り返す人類のニュースなんてもう読まない。
なんて愚かな種族なのかと人類を憎む一方で、でも人々のためになりたい、彼らを喜ばせたいと努力してしまう自分がいる。
愛憎半ばというより、もうかなり絶望の方が深い感じだ。

Tr.9 Icon
アルバム最後の曲は、13分を超える大曲。
小さかった頃、身近な人達がいずれは死んでいくことに恐怖したらしい。
歌詞の内容は抽象的なので明確ではないが恐らく、かつては自身が母に導かれて生き、今や自身の子どもたちが自身の導きで生きていく、その大河のような流れを歌っているように思う。
その母は今はもういない。
でもその呼び声は続いていて、僕はその声に導かれるまま歩んできた。
あちこち引っかかり、ヨタヨタしながら。
ああ、Daniel 君、辛く大変な人生を歩んできたんだねえ。

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