Tokyo Jazz 2019 に The Chick Corea Elektric Band が「オリジナルメンバー」で出演してくれたので、記念に彼らの第1作をレビューしてみる。
まずその前に、このバンドの「オリジナルメンバー」についてなのだが、この第1作の参加メンバーは、Chick Corea(kbd) / John Patitucci(b) / Dave Weckl(ds) のトリオが核になっており、曲によって Carlos Rios(g) あるいは Scott Henderson(g) がゲスト的に参加する形だ。管楽器はいない。
Eric Marienthal と Frank Gambale が参加するのは第2作の Light Years(1987) からなのだ。なので、来日メンバー(Chick/John/Dave/Eric/Frank)をステージ上で Chick がオリジナルメンバーと紹介したことにはちょっと引っ掛かりがあったんだけど、まあ細かいことはいいか。
本作のリリースの3年前に、Chick の永遠のライバル(?) Herbie Hancock が Future Shock(1983) を発表し、Rockit の世界的大ヒットを飛ばした。当時はパチンコ屋のTVCMにまで使われていたのを覚えている。
僕は Chick が Elektric Band を結成した理由の一つに、Herbie への対抗心があったのではないかと勝手に根拠なく考えている。当時、Herbie がインタビュー記事で、自分の娘が初めて自分のレコードを聴いてかっこいいと褒めてくれたのが嬉しいとか語っていた。Chick も普段 Jazz なんか聴かない若い層に広くアピールできるかっこいい(そして儲かる)音楽をやりたかったんじゃないかな。
まあ、Return To Forever を現代風(当時の)にアレンジして打ち出したというのが世間一般の認識だと思うが、派手な音作り、イケメン過ぎるメンバー等、RTFとはちょっと狙いが異なる気がしてならない。
さて、本作について。
まず Chick の機材は YAMAHA の TX816 というシンセモジュールが中心だ。
これは世界的大ヒットとなったFM音源シンセの名器 DX7 の音源部だけを取り出して同時発音数を2倍8倍(doraさんご指摘ありがとう)に増やしたもの。
そこにMIDIマスターキーボードの KX88 を接続して演奏している。
一部の曲では、まだ出始めたばかりのサンプリングができる超高級デジタルシンセ Synclavier も使用しているようだが、メインはあくまでもFM音源だ。
そして Dave Weckl だが、YAMAHAのドラムセットに加えて Simmons や Linn のエレクトロニックドラムを使っている。
確かこの頃は、YAMAHAのドラムセットのスネアやタムにトリガーが仕掛けてあって、打面を叩くと音源モジュールのシンセ音やラテンパーカッション音等が鳴るような仕掛けになっていた。
彼のソロ第2作 Heads Up(1992) の最後に Trigger Happy という、このトリガープレイを駆使したドラムソロ(?)の物凄い曲が入っているのでご参考まで。(クレジットに、Drums, Other(EVERYTHING) とか書いてあるんだよ)
John Patitucci は、ダブルベースとエレクトリックベース(6弦の)を使用。
とこのような感じで、デジタル楽器が普及を始めるちょっと前の過渡期、電子(Electronic)ではなく、あくまでも電気(Ele-k-tric)の音で勝負していた訳だ。
Tr.1 City Gate / Tr.2 Rumble
今でも City Gate のイントロのエレピを聴くとワクワクするなあ。
1分弱の短い前奏曲だが、高速に駆け上る g は Scott Henderson が弾いている。
僕にとってこのバンドのオリジナルメンバーは、誰が何と言おうと中核3人+ Scott Henderson なのだ。
そして City Gate に続くのが泣く子も黙る Rumble だ。
当時、ドラムに興味ある若者のほとんどが、Weckl ショックに見舞われた(と思う)。
BDとSDで基本パターンを叩いて、ハイハットは刻んでリズムキープし、タムはおかず(フィルイン)として時々叩く・・・という従来のドラミングの基本を完全にぶっ壊した、全ての鳴り物を対等に組み合わせたパーカッショニスト的演奏はまさに革命的だった。
当時の音楽雑誌で本人による自身のプレイの解説記事を読んだ覚えがあるが、従来のパターンでSDを鳴らすところにBDやハイハットを持ってきたり、タムを鳴らすところをシンバルに取り替えたり、同じリズムパターンであっても鳴り物を取り換えると途端にかっこ良くなるとか言っていた。
それと、ラテンのリズムパターン(クラーヴェ)の練習が重要だとも。
なお、本作での Rumble は、Chick と Dave のたった2人だけで演奏している。
以後彼等のライブでバンドメンバー全員参加バージョンの Rumble を何度か聴いたが、このアルバムの2人だけバージョンが最も凄みと殺気を感じる。Rumble=出入り(喧嘩)だけに、タイマン勝負が一番だな。
Tr.6 Elektric City
本作は Elektric City を訪ねて、City Gate から入り、India Town に抜けるまでを描くコンセプトアルバムになっており、従ってこの曲が全体の核となる。
Carlos Rios(g) と Chick の掛け合いが素晴らしい。
どうしても Scott の話題になってしまうのだが、この Carlos も凄く良いよ。
Tr.8 King Cockroach
本作の中では恐らく最も人気ある有名曲。
Scott Henderson(g) の色気のある出音が素晴らしい。
翌年の Players や、その後の Tribal Tech の初期作の音そのものだ。
5.04あたりまではひたすら軽快に曲が進行するが、そこから迫力の盛り上がり大会となる。
Tr.9 India Town
前曲からシームレスに繋がる。
前曲がド迫力で盛り上がったので、少しチルアウト気味に、インド風の神秘的なフレーズでまったりと、そしてフェードアウトで去っていく。
オリジナルのLP版ではこれが最後の曲となる。
Tr.11 Silver Temple
CD版になって追加されたボーナストラックの2曲目。
曲名が英語になっているが、本作リリース前から彼らがライブで既に演奏していた Ginkakuji(銀閣寺) だ。
これが僕のフェイバリット。
曲は最初ドリーミーに進行するが、2:27頃からスパニッシュなリズムに切り替わり、曲調が一気にスリリングになる。そして Scott の g が縦横無尽に駆け抜ける。
中域を強調したバイオリンみたいなトーンがため息出るほど素晴らしい。
次回作から Scott に替わって参加する(そして Tokyo Jazz 2019 にオリジナルメンバーとして来てくれた) Frank Gambale も大好きなギタリストではあるが、 やはり中核3人+Scott こそが元祖 Elektric Band だと思うなあ。
しつこいか。
コメント
TX816はDX7 8台分の音源を搭載していますので同時発音数は16〜128ですね。
ご指摘ありがとうございます。DX7相当のモジュールTF1が8ユニット刺さっているので、同時音源数も16×8=128(最大で)ですね。修正いたしました。