前作 I.O.U.(1982) で一部マニアには知られるところになったものの、まだまだ「知る人ぞ知る」存在だった先生が、そこらの普通のロック少年達に広く知られるきっかけとなった作品。
先生を心から敬愛していた Edward Van Halen の口利きにより、メジャーレーベルと契約できたというのは有名な話だ。
十分な予算と時間をかけて制作され、メジャーの強力な広告宣伝で売り出され、当時のロック雑誌にもたくさん取り上げられた。
中でもやはり、「あの Eddie が心から師と仰ぐ凄いテクニックのギタリスト」という形容詞がとても効果的だったと思う。
そういえば当時のロック雑誌の記事で、Eddie が先生を評して曰く「俺が両手を使わないと弾けないフレーズを Allan は片手で弾いてしまう」というのがあって、普通のギターキッズ達は、右手で弦をタップする革命的なライトハンド奏法にあこがれていたから、何だか一体どっちが凄いのかわからなくなって混乱した記憶がある。
さて本作のメンバーは、Allan Holdsworth(g) / Jeff Berlin(b) / Chad Wackerman(ds) のトリオ。
一部の曲に、Paul Williams と Jack Bruce が vo で参加している。
一応書いておくと、Jeff Berlin は Bruford、Players、渡辺香津美等で有名な、プログレからジャズ・フュージョンまで幅広くこなす達人。
それから Chad Wackerman は Frank Zappa のところの卒業生で、変態超絶技巧のとっつぁん坊や(当時)だ。
なお、本作リリースの翌年1984年に先生が来日し、郵便貯金ホールでライブを行ったが、それが映像作品”Tokyo Dream – Allan Holdsworth in Japan”になっている。
その時の来日メンバーは、b が Jimmy Johnson に交替している以外は本作と同じ。
先生のフレットボード上の手元をどアップで写し続けるという、普通のロックライブ映像作品では考えられない、マニア向けのツボを押さえた良作品なので、ギター好きな人には是非お勧めしたい。
Tr.1 Three Sheets to the Wind
軽快なイントロから続いて0:44あたりから先生の専売特許のコード奏法。
まるでシンセのようだ。
I.O.U.のレビューでも書いたが、このサウンドは複数のディレイとボリュームペダルで出している。
続く g ソロでの先生の音がとても魅力的。
ちょっと鼻をつまんだような中音域を強調した音で、ギターというよりも木管楽器(Oboeとか)のようなニュアンスを感じる。
Jeff の b も音がとても美しい。
今では b で和音や高速アルペジオを鳴らすプレーヤーはいっぱいいるが、濁らずにきれいに鳴らすにはテクニック、指の力、楽器とアンプの調整、録音技術の全てが必要だ。
Tr.2 Road Games
盟友 Paul Williams が vo で参加。
前述の映像作品では、何ともダサイ普段着で歌う Paul の雄姿(?)が見れるよ。
3:27あたりからの Jeff のプレイが素晴らしい。
Tr.4 Tokyo Dream
タイトル通り、ドリーミーな素敵な曲。
この曲は、スコア譜を買ってずいぶん練習したな。
リフのところは、ピックを使わず右手指で弦を鳴らした後、人差し指と中指の2本でフレットボード上をタップする。
これをきれいに鳴らすためには、テクニック、指の力・・・まあいいか。
Tr.6 Material Real
イントロのコード奏法が泣きたくなるほど美しい。
六本木Pit Innでのライブで、先生の演奏を目の前で見たことが何度かあるが、あの異様にでかい手(指がすごく長い)を目いっぱい拡げて、超オープンなコードを弾いていた。
因みに、先生が六本木Pit Innに来られることを「ご降臨」と称し、我々信者はいかなる事情があろうとも万難を排しお布施を握って日本中からはせ参じることになっていた。
2014年の先生の最終来日公演(後に我々信者に最終講義とも呼ばれた)に、仕事の都合がつかずどうしても行けなかったことが本当に悔やまれて仕方が無い。
最終と言いつつもう一度くらいチャンスあるかなとうっすら願っていたけれど、2017年に先生は逝去されてしまった。
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