
今世紀のプログレ界重鎮 The Flower Kings の新譜をご紹介。
前作 Look At You Now(2023) から2年。
社会の分断と非寛容が深刻になる中、今回のアルバムテーマは超シンプルにLOVEだ。
彼らの場合は、というより Roine Stolt の場合は、Andy Tillison (The Tangent) みたいに社会を断罪したり、ボヤいたり、絶望して叫んだりはしない。
その代わり、しっとり、じっくり嘆いてみせたり、何か少し希望の光を残してくれたりするね。
さてメンバーについて。
前作制作前に米国人 Zack Kamins(kbd) が抜けてしまったため、前作ではマルチインスツルメント奏者の Roine が自らキーボードを担当していた。そのためアルバムのどこを切っても金太郎。Roine 節が全面的に支配する作品になっていたと思う。(僕は Roine の音楽が大好きなので決して批判ではないよ)
そのキーボードパートに、何と今回は Lalle Larsson が、「正式メンバーとして」参加した!
(因みにこの人、クレジットに正しい名前を書かれることがとっても少ない不幸な人なのね。Bandcamp の本作の紹介ページにも Larson と書かれているし・・・)
北欧プログレファンにとっては名の通ったベテランであり、ソロ作品も多数出している才人。
僕は彼の作品が大好きで、Weaveworld とか何度聴いたことか。
Karmakanic では Jonas Reingold と、Agents of Mercy では Roine Stolt と一緒に仲良くやってきたので、TFKに参加することには何一つ違和感が無い。TFKのツアーにも参加していたしね。
他のメンバーは、バンド創設期からの右腕 Hasse Froberg (vo) 、前作から正式メンバーとして里帰りを果たした Roine の弟 Michael Stolt(b, vo) 、そして前々作から参加し存在感を増してきた Mirko DeMaio(ds) 、以上に加えてリーダーの Roine Stolt(vo, g) の計5名。
曲によりゲストが多少参加しているのだが、BandcampのD/L販売で購入したので曲毎のクレジットが不明。とりあえず記す。
元メンバーの Hasse Brunuisson(perc)、前作でも大活躍したMichaelのガールフレンド Jannica Lund(vo)、前々作にも参加していた Aliaksandr Yasinski(Accordion)、そして音楽が人の形を取って生まれてきた天才 Jacob Collier(Choirs) 以上。
本作全体の印象。
いやあとにかく Lalle の全面的登用は大正解。
Tomas Bodin の不気味可愛いフレージング、Zack の壮大かつドリーミーなサウンド、そのどれとも異なる謎めいたタペストリーみたいな音世界。ちょっと未来的でかつ陰のある音。まさに欧州人の音だね。
Roine は曲を書いて全ての楽器を演奏できちゃう人なので、それが高じてソロ作でTFKをやっちゃったりしたこともある(Roine Stolt’s The Flower King – Manifesto of an Alchemist(2018))んだが、でも隅から隅まで全部 Roine の音になってしまうリスクもあるのだ。
なのでやはり、バンドとしての TFK には Roine と対等に音作り・曲作りをこなせるキーボードプレーヤーが必須だというのは僕の持論。
Tr.1 We Claim the Moon
軽快なロックでアルバムが幕を開ける。
Hasse の男気溢れるボーカルがかっこよろし。
そして後半はギターとキーボードが一騎打ち。
たった6分強とは思えないお腹たっぷりの一曲。
Tr.2 The Elder
冒頭から繰り返される2音(C# C# D# D#)が彼らのクラシックな名曲(例えば Stardust We Are)を想起させる。
ファンとしては安心して聴くことができるTFKらしい暖かくてドリーミーな素晴らしい曲。
6:05あたりにキラキラと入る Lalle の不穏なピアノ、そこからしばらく Lalle のピアノに注目して欲しい。
Roine が紡ぐ「いつもの」TFKサウンドに、Lalle は見事に自分のカラーを注入している。
Tr.3 How Can You Leave Us Now!?
歌詞を見ていないので内容は不明なのだが辛そうな曲名だ。
シングルカットされたようだ。
6分弱の曲長に彼らの魅力が詰め込まれている。
Tr.4 World Spinning
僕的には本作における一番のおススメ曲。
曲長は2分強と短くインタールード的な曲。
Lalle Larsson 作の目くるめくドリーミーなキーボードソロ。
キーボーディストってのは、こうやって世界を丸ごと作りこめるからいいよね。
曲名から連想して、谷川俊太郎氏の「朝のリレー」を想起してしまい、つい涙目になってしまう。
Tr.7 Kaiser Razor
Roine のギターを中心に構成したインスト。
これも2分半程度のインタールード的な曲。
ギターのちょっとオリエンタルなフレーズが面白い。
Tr.10 Love Is
曲名及び曲調から、本作のセントラルピースかな。
Roine と Hasse が交互に、あるいはハモって歌う。
2:12から始まるブラスバンドのブンチャッチャは、All You Need Is Love (Beatles) へのオマージュかな。
思い返せば、TFKは最初から Love&Peace なバンドだったな。
本作のクレジットにRoineの宣言が書かれている。
Remember: War is just fear & failure, FEAR manifested in small people with shady political or religious agendas – LOVE is always the winner.
Tr.11 Walls of Shame
Lalle 大活躍。
シンセによる美しいオブリガード、Classic と Jazz の素養を感じる端正なピアノ、涼やかな Hammond B3、これらを全て Roine が書いた曲の中に見事に織り込んでいる。
Tr.12 Considerations
何とアルバム最後を締めるのは Jannica &Michael のカップルが書いたこの大曲。
メインボーカルも Michael が歌っている。
兄(Roine)とはかなり異なる声質で、キーも低め。
最後は壮大なシンフォニックサウンドと Jannica の声で終わるのだが、いつもの Roine による締め方と比べるとちょっと薄味な気がして余韻がもう少し欲しいかな。
(それにしても Jacob Collier のクワイアは一体どこで鳴っているんだろ?何度聴いてもわからん)
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