The Tangent – The Slow Rust of Forgotten Machinery(2017)

Andy Tillison が率いる英国の Progressive Rock バンド The Tangent のスタジオ9作目。
作品毎に参加メンバーの出入りが激しく、立ち上げメンバーで残っているのは Andy のみ。と言うよりも、要するに Andy のプロジェクトであると考えれば良いのだろう。
今回の参加メンバーは、Andy Tillison(kbd, vo, ds) / Jonas Reingold(b) / Luke Machin(g, vo) / Theo Travis(sax, fl) / Marie-Eve de Gaultier(vo, kbd) といった顔ぶれ。Tr.5/6に他のゲスト参加あり。
Jonas Reingold は、The Flower Kings や Kalmakanic 等で活躍する今や欧州プログレの重鎮。Luke Machin は The Tanget の6作目 Comm で登用されて大注目を浴びた若手凄腕ギタリストだが、今回はプロデュースや曲作りも担当しており、底なしの才能を見せている。Theo Travis は Soft Machine, King Crimson 等、英国のProg/Jazz-Rock界で広く活躍するSaxプレーヤー。立ち位置的には、Mel Collins の後継者という感じか。Marie-Eve de Gaultier は、Luke Machin が立ち上げた自身のバンド Maschine (スペルミスじゃないよ)から連れてきたベルギー生まれの素敵なプレーヤー。ピアノに加えてバックvoを担当しており、彼女の声が加わると途端に Canterbury っぽくなるのが嬉しい。
最後に Andy Tillison 御大だが、いつもの素敵なkbdと、決して上手では無いが妙にハートに訴える歌声に加えて、今回はゲスト ds を登用せず、自ら叩いている。これが無茶苦茶上手い。
さて本作のテーマだが、ジャケット画に描かれた朽ち果てて錆び行く機関車、副題になっている「我々はどこで一線を引くんだい?」という問いかけ、各曲の題名等から、深刻化する未来の不安(主に政治・社会面での)とそれに対する無力感、でも何か行動をせずにはいられない Andy の焦りを感じる。で、やっぱり移民問題と Brexit のグダグダ感が大きく影を落としているようだ。Big Big Train が英国人の伝統と誇りを上手くくすぐりながら上品に現状への警句を織り込んでいたりしたが、Andy 流は直球一本やりで、本作の最初から最後まで怒り、嘆き、憂う。Prog の皮をまとった政治・社会問題のプロテストソングだ。最初聴いたときは、いつもの素敵なメロディーとハーモニーに癒されたりしたが、歌詞を読み込んで聴くと、いやあ結構ハードで疲れるね。

Tr.1 Two Rope Swings
ピアノと Andy の渋い歌声から始まる、心に染み入る佳曲。
揺れる2本のロープという曲名から最初は怖いものをつい連想したが(だってジャケット画に母と二人の子供が描かれているし・・・)、そうではなくて太い木の枝にロープをつるしてぶらさがって川に飛び込む子供の無邪気な遊び Rope-swing のことらしい。Andy は自身とアフリカの少年を登場させ、訥々と語り掛けるように、子供の頃の無邪気な遊びと豊かな自然、その後知る厳しい現実の世界の間でロープを揺らして見せる。
ピアノ、フルート、そして女性バックボーカル。Canterbury Music の系譜を堂々と継承する英国らしい曲だと思う。

Tr.2 Doctor Livingstone (I Presume)
作曲は Andy と Luke Machin で、Luke の超絶 g プレイがてんこ盛りに織り込まれた曲だ。
メタル系シュレッディングギタリストばりのスイープやら超高速タッピングから欧州らしいシンフォ系重低音リフまで自由自在に繰り出してくるが、でも曲調としては過度にそこらへんの音には行かずに、ドリーミーさと英国らしい端正さを失わないのがさすが。これだけの曲を書いて、これだけのギターを弾けるとは、凄い才能だと思う。
ところでこの曲名は、アフリカ探検中に消息が消えて、後に発見された探検家リビングストン博士に邂逅したときに、探索者のスタンレーが発した言葉(もしかしてリビングストン博士ではありませんか?)なのである。実は Andy は前作の A Spark in the Aether(2015) リリース後に心臓発作で倒れ、しばらくは音楽活動から遠ざかっていた。肉体的問題のみではなく、誰のために何のために曲を書くべきかを悩んでいた模様。そして再び情熱に火をつけて曲を書き始めるための探求(魂の探索)を始め、それをリビングストン博士の捜索になぞらえてこの曲を書いたとのことである。

Tr.3 Slow Rust
短縮されているがアルバムタイトル曲ということになるのかな。Andy作。
”Slow Rust”(ゆっくりと錆びていく)とは、(移民を締め出す等)世知辛く余裕が無くなっていく世界(The World Turns Sour)、一見わかりやすい両極端な主張(残るか離脱か等)が幅を利かせ中道が失われていく世の中、かつてはそれなりに機能していた様々な機構(社会や政治の)が壊れていく現状を示しているようだ。そしてインタビューを読んだ限り、この曲はプレス(報道)に関する問題提起が主題のようだ。
22分強の長い曲だが、怒りを込めた激しくアップテンポのパートから、不安と悲しみが伝わる静かでアコースティックなパートまで複雑に変化していくので、聴く者を一瞬たりとも飽きさせない。Andy が歌っている部分は完全に Andy の音世界になるのだが、インストパートではちょっと The Flower Kings を思わせる部分(7:30あたりとか)もある。また、10:30あたりから Andy が激しく毒を吐き始めるのだが、ちょっと Pain of Salvation を感じたり。

Tr.4 The Sad Story of Lead and Astatine
曲名からは環境問題が主題かと思ったが、そうでは無い模様。(偏った)政治が人々を隔てることを歌っている。
本作の中では最も憂いに満ち、美しい、堂々とした Canterbury Music 的佳曲。そして驚きの Andy のドラムソロまであり。これが上手いのね。

Tr.5 A Few Steps Down The Wrong Road
ポピュリストに導かれた現在の愚行(Brexit)に対する激しい怒りを歌う。既に誤った道に踏み込んでしまっているが、まだ数歩だから引き返せるかもといった曲名。歌詞の中でも進んできた線路を逆に戻って家に帰ろうと唄われるのだが、唄っている本人(Andy)が今や戻れるとは全然思っていない感じである。
ホルストのジュピターのメロディーが途中で挿入されるが、毒吐きの歌詞にまみれてなので全く崇高な感じはしない。

Tr.6 Basildonxit
いきなりのエレクトロポップである。作曲は Matt Farrow で、トラック作り(クレジットでは decks, beats, loops)にも参加している。
曲名の Basildon とはイングランドの比較的大きな街の名前で、どうやら The Tangent の皆さんに所縁のある地らしい。付近の固有の地名(道路とか)がいっぱい出てくるのだが、まあ唄っている内容は他曲と同じで、ゲートを閉ざして移民を締め出す等の愚行を嘆いている。Brexit の地域版で Basildonxit というわけだ。

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