The Flower Kings – Look At You Now(2023)

前作 By Royal Decree(2022) リリースから約1年半。TFKの新譜がリリースされたのでレビューする。
いつも通りの印象的なアルバムジャケット。
花咲く大地(ハート型)の奥から見つめる目。
まだ歌詞を読み込めておらず含意は不明なのだが、本アルバム全体として人類に対する警句的なテーマを含むようだ。但し、聞こえてくる音楽そのものは、いつにも増してポジティブで温かい。
Roine Stolt は時々、トゲトゲしく攻撃的な音楽も作るのだが、今回は100%温かいのだよ。
実はアルバムを入手してから1週間ほど毎日聴き続け、ちょっとモヤモヤも感じつつ時間が経過してしまった。とりあえず現時点の印象を書いてみるが、このモヤモヤが文章に現れてしまうと思うので、読みにくかったらごめんなさい。

メンバーについて。
残念なことに、Zack Kamins(kbd) が抜けてしまった。
Desolation Rose(2013)を最後にTFK創設から支えてきた Tomas Bodin が抜け、その大きすぎる穴を見事に埋めた(TFKへの参加はWaiting For Miracles(2019)からだが、実質的には Roine Stolt’s The Flower Kings 名義の Manifesto Of An Alchemist(2018) が初参加)のが Zach だったのだが、基本的に欧州人が大半を占めるTFKに米国在住の Zach が大西洋を越えて参加することには色々ハードルがあったようだ。
前作のレビュー記事でも書いたのだが、Tomas Bodin が抜け、重鎮の Jonas はプロデューサー業で超多忙、Hasse も自分のバンドの方にどうしても気持ちが向いている状態で、TFKのアルバムの作曲面については必然的に Roine 節一本鎗になりがち。そこを救っていたのが、新メンバーの Zach と Mirko の曲作りへの参加だった。特にバークリー出身で、TFKの過去作をしっかり研究しつくした Zach の書く曲は、もう自分一人だけでもTFKを存続させることができるほどのレベルだったと思う。
さてそういうわけで、本作では再びほぼ Roine 節一本鎗の作風に戻っている。
では演奏面では抜けたキーボーディストの穴を誰が埋めているかといえば、Roine が弾いているのだ。
何でもこなせるマルチプレーヤーなのでね。
Roine 以外の中心メンバーとしては、弟の Michael Stolt が(ゲストではなく)完全に固定メンバーとして参加し、bass 以外にも vocal や guitar で大活躍。(その代わり Jonas Reingold はついに全くの不参加となってしまった)
Mirko DeMaio(ds) は前作より更に存在感を増した。
そしていまや少数となった創設メンバーの Hasse Froberg の美声は健在。
この4名が現在のTFKということになる。
他にゲストとして、Jannica Lund(vo)、Hasse Bruniusson(perc)、Lalle Larsson(kbd)、Marjana Semkina(vo) が一部の曲で参加。

本作全体の印象について。
これは Desolation Rose(2013) 以降の諸作に共通だと思うが、20分越えの大曲は無く、本作で最長の曲はラストの12分弱。それ以外の曲は長くても6分程度。
その代わり、どうやら本作は全体で一つの組曲を形成しているようだ。
その証拠?に、いくつかの印象的な歌詞(単語)が繰り返し織り込まれている。
ライブで彼らが本作の中の曲をどのように取り上げるのが興味がある。
過去の大曲(例えば Stardust We Are)の場合、短く抜粋版に編曲して演奏することも多かったが、このように数分程度の長さの曲に分割されていれば、特にキャッチーな曲だけを取り上げて、そのままライブで演奏しやすいからね。
曲調は明るく温かくポジティブ。
演奏面ではあまりメンバー同士のインタープレイは無く、すっきり整理されている印象。
誤解を恐れずに言えば、Roine が隅から隅まで全てを掌握して完全にまとめあげた作品だと感じる。

Tr.1 Beginner’s Eyes
アルバム最初のこの曲のイントロを聴いて、あまりにもいつも通りのTFKなので、安心感と多少の肩透かし感を味わってしまった。
Roine の脳内には完璧なTFKレシピが格納されているので、いつでも彼一人でもTFKの音楽を紡ぎだすことができる。でもそこに Tomas やら Zach やら、他の異なる才能が絡んでくることで更に味わい深い音楽を生み出してきたわけだが、この曲においてはそのような異才は存在せず、ワンマンTFKとなってしまった感がある。

Tr.2 The Dream
感動的で素直に素晴らしい曲。
メインボーカルが Roine で始まり、途中から Hasse に交代していくのだが、この曲調であれば最初から最後まで Hasse に任せた方が良いと思うのだけどなあ。
後半、Hasse のシャウトが熱いぞ。男だねぇ。

Tr.4 Dr. Ribedeaux
Mirko DeMaio 作曲の短いインストナンバー。
ゲストで Lalle Larsson(kbd) が参加。
LP4枚組版であれば、A面最終曲。
物語の一区切りとなる、軽快でスリリングな良い曲だ。

Tr.9 Scars
全体的に温かい曲調が占める中でこの曲はややビターな風味を帯びる。
Roine の曲。
Roine の咽ぶギターとゲストの Lalle Larsson のシンセの掛け合いが楽しい。
そしてゲストの Jannica Lund も加わった分厚いバックコーラスは豪華。
まったりスローテンポの曲だが、Mirko のドラミングには細かい工夫があって聴きこむと面白いよ。

Tr.13 Look At You Now
アルバム最終曲。
ポジティブで温かいテーマフレーズを Hasse が歌い出し、ドリーミーなシンセが乗ってくるとなると、まあいつも通りのTFKだ。
高水準な作曲、完璧な演奏、素晴らしい歌声。
何一つ欠けてはいないのだけど、ここにどこか悪戯っ子っぽいシンセのフレーズや、若々しく壮大なシンセのオーケストレーションサウンドなんかを期待してしまうのは、ファンの身勝手な無いものねだりなんだろうか。

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