元Yesのお騒がせ天使 Jon Anderson の新譜。
お騒がせ天使ってのは僕が勝手にそう呼んでいるのだが、まあ理由はある。
この人は、何と言うか「自分の衝動に忠実」な人らしく、自分が創設メンバーの一人だった Yes を何が気に食わないのかぷいっと飛び出しては、よそで音楽活動(プロジェクト、新バンド、中には Yes そっくりなバンドも)を立ち上げて、その後また「一緒にやろうよ~」と Yes に戻ってくることを何度も繰り返している。
また、Yes が事実上解散状態になった後で、同じく創設メンバーである Chris Squire が若き天才 Trevor Rabin と立ち上げ準備をしていた Cinema という新バンドに「一曲僕に歌わせて~」と飛び入りゲスト参加し、その後何がどうなったのかわからないうちにこの Cinema が新生 90125 Yes になっちまったという恐ろしい歴史もあったりする。
そういうことばかりしていると凡人ならば周囲から嫌われる可能性が高そうだが、「まあ Jon だからね~」「あの人は、ほら、天使みたいなもんだから」で許されちゃうところが凄い。
さて、その天使の Jon Anderson がまたまた面白いことを始めたよ。
この The Band Geeks ってのは、YouTube あたりを中心に活動しているプロ/セミプロミュージシャンのバンドというかお遊びプロジェクトで、懐かしプログレの有名曲なんかを抜群のテクニックとセンス、そして若干のお笑い成分をまぶして演奏してくれる楽しい人達なのだ。
彼らのレパートリーの中には、Yes の Close To The Edge アルバム丸ごと完全再現とか凄いのがあるよ。
で、ある日 Jon が彼らを見出して?コンタクトし、一緒にライブをやったら大受けしたので、その気になって制作したのがこのアルバム。
2025年には何とこの面子で日本公演も予定しているらしい。
今は Steve Howe が牽引している本家 Yes も、(年齢の割には)精力的にアルバムをリリースしているが、もう曲がすっかりまったりしてしまい、昔のスリリングなプログレの音像はそこには無い。
比べれば、こっち(The Band Geeks)はやや若い人たち(Jon を除けば)なので、音は元気でスリリング、かつ今風な演奏だ。
歴史を振り返るならば、この後、本家 Yes と、この Jon の新生バンドが Reunion しちゃったりしても全然驚かないぞ~。
さてメンバーだが、中心は Jon Anderson(vo) 御年79歳。
センターで歌って踊って、全部作曲している。
透き通った天使の声もお変わりなくて、多分この人(天使)は年取ったり亡くなったりは絶対しない気がする。
後ろを支えるバンドの中心人物は Richie Castellano(b) という方で、何と Blue Oyster Cult の現役メンバーだ。
マルチミュージシャンなので、b/g/kbd/vo をこなし、ほとんどの作曲とプロデュースに関わっている。
あと驚いたのが、Chris Clark(kbd) が参加していることで、知る人ぞ知る再結成 Brand X に参加していた人だ。
あとは、Andy Ascolese(ds)、Andy Graziano(g)、Robert Kipp(Hammond)、Anne Marie Nacchio(vo) といった方々がメンバー。
本来は Anne Marie 嬢がバンドのメインボーカルなんだけど、Jon のアルバムなので Additional Vo 扱い。
Tr.1 True Messenger
牧歌的なアコギと Jon の歌で始まる。
もう冒頭からド直球の「無茶苦茶 Yes っぽい」曲。
Richie の b はリッケンバッカーだと思うが、Chris Squire の「あの音」(新しいベース弦を張ったばかりのブリリアントな音を轟音で鳴らす)を見事に真似しているよ。
Andy Graziano の g も、Steve Howe を現代的にアップデートしたような演奏に加えて、ソロでは Trevor Rabin にもなっちゃうのが凄い。
Tr.2 Shine On
この曲は YouTube で公開されているので、未聴な人は是非聴いてみて。
ポジティブでポップなプログレ曲。
Ande Ascolese が叩く、少し跳ねたリズムのドラミングが凄く楽しい。
分厚いコーラスもお見事で、ちょっと「二人のTrevor」時代のポップな Yes を彷彿とさせる。
Tr.8 Once Upan A Dream
皆さんお待ちかねの10分超え大曲。
世間では、海洋地形学とか Awaken とかと比較されているみたい。
まあそういう位置づけの?、ケレン味たっぷりなアルバムセンターピースってことだ。
僕は70年代からリアルタイムで Yes を聞き続けてきている人なんだが、最早ここに断言する。
ここにいるのは紛れもない本物の Yes だよん!
もうね、Yes というのはバンド名なんかではなくて、音楽のサブジャンル名であり、作曲/演奏スタイル名だと思う。
才能あるミュージシャンが「Yes やろうぜ」って集まれば、そこに Yes の音楽が出現するのだよ。
極言すると、そこには元Yesメンバーなんてのも全く必要無い。
Yes の音楽を愛するミュージシャンがいればできちゃうのだ。
Billy Sherwood なんかも何度もそれを証明してきているわけだが、ここに更に凄い事例が現れたってことだ。
Tr.10 Build Me An Ocean(Piano and String Quartet)
この曲は日本版だけに付いてくるボーナス・トラックで、Tr.4 の曲を弦楽四重奏+ピアノでしっとり演奏している。
クレジットが無いので演奏者が不明なんだが、恐らくピアノは Chris Clark が弾いていて、弦楽の方はDAWじゃないかな。(Tr.4 にもピアノはもちろん、ストリングスも入っているので、トラックダウンだけやり直して別バージョンにしたのかも)
しっとりして良い演奏なんだけど、やっぱり The Band Geeks の皆さんが演奏しているバージョンの方が楽しいな。でもこうやって比較して聴けるのは面白いので、ちょっと高いけど日本版オススメ。
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