Bokanté – Strange Circles(2017)

すっかりはまって、今月は Snarky Puppy ばかり聴いているのだが、Snarky のリーダーである Michael League が、彼らのアルバム Family Dinner Volume 1(2013) に客演したカリブの歌姫 Malika Tirolien をフィーチャーして立ち上げた別動プロジェクトが Bokanté だ。
従ってバックのメンバーの多くは Snarky Puppy のエリート演奏者達。音楽性は Snarky よりも更に World Music 寄りだ。
ところで、この World Music っていう表現も、とりあえず便利だから使っているものの、どこのことを指しているのか曖昧だね。欧米人に取っての、「馴染みの深い文化圏の外側の世界」を十把一絡げに指す言葉だから。
Bokanté の場合、Michael League は Morocco 好きで、西アフリカの音楽の影響を公言している。加えて、Malika Tirolien は仏領 Guadeloupe 出身なので、ご当地のカリビアンミュージックを通じて西アフリカ(奴隷として連れてこられた先祖達の祖国)の音楽が生来色濃く影響を及ぼしているはずだ。
また彼女が書く歌詞は、彼女にとっての母国語であるクレオール語で書かれている。このクレオール語という呼び方も曖昧で、宗主国がもたらした公用語としてのフランス語と、現地の従来の言語や先祖の出身地の言語が混合してできた合成言語というか激しい訛りを意味するのだが、その「現地」が違えば当然クレオール語も大きく異なるわけだ。それをフランス目線で、「現地化し変化したフランス語」みたいに捉えて、 十把一絡げにクレオールと呼んでいる。英語の場合も同様にピジンイングリッシュというのがあるね。
話が大きく脱線したが、彼らの音楽も、歌詞も、世界中の素敵な文化のミックスでできていて、もしかするとそれは白人による非白人文化の収奪みたいな現象なのかもしれないけれど、そんなことはともかくこうして素晴らしい音楽が生み出されているのだから、いいんじゃないのということだけ言いたい。
さて Bokanté のメンバーだが、Snarky 同様、打楽器隊が分厚い。André Ferrari、Jamey Haddad、Keita Ogawa の3名だ。ギター隊も分厚いよ。
Bob Lanzetti、Chris McQueen、Roosevelt Collier の3名だが、Roosevelt は Steel Guitar の専門家だ。これがとてつもなくかっこいい。残りは、リーダーかつ b & g で作曲担当の Michael League と、ボーカルで作詞担当の Malika Tirolien という編成。

Tr.1 Jou Ké Ouvè
6/8拍子の太鼓が重厚なビートをキープし、オーケストレーションしたみたいなギター群が未来的な響きを聴かせるかっこいい曲だ。2:25からの Roosevelt の Steel Guitar ソロが始まると、デルタブルース風味も加わる。Malika のボーカルは多重録音で不思議なハーモニーになっていて、これも未来的でぐっとくる。

Tr.2 Nou Tout Sé Yonn
曲名は「我らは一つ」みたいな意味らしい。
Malika の歌声のバックで、細かいリズムを刻んで、パーカッション隊が大活躍する。そして、2:28頃、Malika の気合の入った掛け声とともに金物(名前がわからない)も入ってパーカッションが更にスケールアップ。Steel Guitar のソロで涅槃に入る。

Tr.7 An Ni Chans
曲名は「運が無い」みたいな意味らしい。
各パートが一つの音型を延々と繰り返す、世界各地の民族音楽に良く見られる構成。コードも一発、つまり一切コード進行しない。これは曲を無限に続けられることを意味する。夜通し踊ったりするには都合が良いね。
西アフリカなりカリブなりの影響で作った曲調なわけだけど、パターンを繰り返す g の音が能天気な三味線みたいに聴こえ、そうなると何だか太鼓の音まで懐かしく感じられ、まるで日本のどこかにありそうなハイテンポな民謡みたいにも思えてくる。音楽を通して世界は繋がっているのだなあ。
3:30頃、突然曲調ががらっと変わってスローになり、Roosevelt によるブルージーな Steel Guitar ソロになる。何だかどの曲でも、この「Rooseveltのブルースの時間」があって面白いよ。

Tr.9 Vayan
この曲が一番のお気に入りだ。分厚いパーカッション軍団が緻密に構築するパルスと、Michael のバリトンギターの低音リフに支えられて、Malika の浮遊感のあるハーモニーが曲をリードする。そして Steel Guitar の轟音ソロ。まるで David Gilmour のようなキレた音だ。
Michael がこのプロジェクトを編成するにあたって敢えて管楽器や鍵盤楽器類を一切排したのは正解だと思う。打楽器と弦楽器(撥弦楽器)は、楽器の中でも比較的発生が古いもので、西洋音階のしばりからも比較的自由だ。土俗的な肉体的な音楽を打ち出すためには、この編成は最適だと思う。

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