Big Big Train – Ingenious Devices(2023)

英国のプログレッシブロックバンド Big Big Train の新譜が届いたので早速レビューする。
本作はフルアルバムではなく、ある種のミニアルバムみたいなものだ。
収められている楽曲は5曲。
そのうち3曲は、過去のアルバムに収録された楽曲を再演奏(!)あるいは一部パートを入れ替えたもの。
残り2曲は、本作のために新たに書き下ろされた短いオーケストラ曲と、2022年に収録された新メンバーによるライブ。
本作の聴きどころは、まず何と言っても過去作3曲(作曲者の Greg Spawton によると人類が創意工夫の能力により限界を打破してきた歴史に関するトリロジーとのこと)の再アレンジと豪華17ピース・ストリングスの導入による、感動3倍増しの演奏だろう。
そして、あらためて David Longdon の歌唱力に心が震える。

Tr.1 East Coast Racer
BBT ファンなら皆大好きな感動大作。
オリジナルは2013年リリースの English Electric Part Two に収録。
この大曲をなんと彼らは2019年当時のメンバーで全部演奏しなおした。
(亡くなった Dvid Longdon のボーカルだけはオリジナル録音を使用)
しかも17ピースの豪華ストリングスを加えて。
BBTメンバーは、Grep Spawton(b) / Nick D’Virgilio(ds, perc) / Dave Gregory(g) / Rikard Sjöblom(g, vo) / Danny Manners(kbd) / Rachel Hall(vln) / David Longdon(vo, fl) の7名。
加えて BBT Horn の5名と弦楽器17名+指揮者の大所帯だ。
僕はこの曲をいくつかのバージョンで聴いてきたが、本作こそが間違いなく最高傑作だ。
汽車(マラード号)がいよいよ最高速に達して音楽が加速し、10:40頃から豪華ストリングスが伴走を始め、10:54頃からクワイアが包み込んで、もう魂が持っていかれるような凄いアレンジ。
そして David が、あの素晴らしい声で、”Into history, into legend, she flies!” と高らかに歌い上げる。(ここ、泣くところ)
曲のフィナーレ部分は、オリジナル収録後に、よりライブ向けに映えるようにと Greg が Danny に依頼して付け足したパートになっている。
Dave Gregory の素晴らしい g ソロも。
つまり、オリジナルから数度のライブを経て進化してきたこの曲の集大成、いわば完成形が本作に収められているのだ。

Tr.2 The Book of Ingenious Devices
曲間に収まるのは、1:21ほどの短いオーケストラ曲。
バンドの歴史、彼らが成し遂げてきたこと、不幸な事故、本作をリリースした想い。
そういうことを考えながら聴くと、万感込み上げてくる小曲。

Tr.3 Brooklands
オリジナルは Folklore(2016) に収録。
とある Racer についての物語。(Brooklands とは、大戦前にサーキットがあった地名)
作曲者の Greg 曰く、Grand Tour(2019) 収録時には予算が潤沢に使えて Voyager を17ピースのストリングス入りで収録できたが、本来は3部作である East Coast Racer と Brooklands がストリングカルテット収録だったのを残念に思っていたとのこと。
そこで本作では、Voyager と同じ17ピースのストリングスを入れ、更に Ds と b パートも収録しなおしたらしい。
中盤(7:00頃)の激走するドラムとストリングスの掛け合いが素晴らしいよ。

Tr.4 Voyager
オリジナルは Grand Tour(2019) に収録。
元々が17ピースストリングス入りの豪華版なので、本作ではリミックス程度。
地平線の向こうへ、そして宇宙空間を超えて、人類が探求の旅に出る。
そうボイジャーは旅人の意味であるが、NASAが打ち上げた外宇宙探査機の名前でもあるのだ。
こうして BBT の金字塔である “mankind and machine” 3部作は、見事に磨き上げられて本作に結実した。
Greg Spawton が作曲し、David Longdon が歌った素晴らしい楽曲が完成に至ったことを喜ぼう。

Tr.5 Atlantic Cable
オリジナルは Common Ground(2021) 収録。
大西洋の海底に敷設された通信回線、いわゆる海底ケーブルのお話。
この曲は3部作には含まれないが、人類が技術と創意工夫で自らの限界(ここでは地理的距離)を克服してきたというテーマは共通している。
本作は、最新メンバー(下記)によるライブ版を収録している。
Greg Spawton(b) / Nick D’Virgilio(ds, vo) / Rikard Sjöblom(g, kbd, vo) / Oskar Holldorff(kbd, vo) / Clare Lindley(vln, vo) / Alberto Bravin(vo, kbd)
正直に言えば、Alberto Bravin(元PFM) の歌唱力は David Longdon の比較にはならないとは感じるが、でも世の中のBBTファンは彼の成長と活躍を皆で暖かく見守っている感がある。
人類が限界を打破してきたという楽曲のテーマ、旧メンバー中心のアルバムの最後に新メンバーによる演奏を持ってきた Greg の心意気。
どんな悲劇も乗り越えられる、我々は前に進んで行く、というその決意を感じながら本作を是非聴いてほしい。

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