Spock’s Beard – V(2000)

現代のプログレシーンでTFKと並ぶ最重要バンド Spock’s Beard(SB) を、これまでレビューし忘れてたので、一番好きな作品を取り上げる。スタジオ5作目なので、アルバムタイトルが V だ。
この頃のSBは、Neal Morse が音楽的リーダーシップを発揮していた。彼はキーボード、ギター、ボーカルの全てを巧みにこなすマルチプレーヤーで、そして素晴らしい曲と詞を書く。
Neal は後にバンドを脱退し、個人のプロジェクトを始めるのだが、その出音は本作の頃のSBに通じるポジティブで暖かなものだ。そして Neal が脱退したSBは、少しだけ普通のロックになっていくのだが、それはそれで途轍もなく素晴らしいのだ。いずれレビューしてみたい。
本作の参加メンバーは、Neal Morse(vo, p, syn, g) / Alan Morse(g, vo, cello, sampler) / Dave Meros(b, vo, fr.horn) / Nick D’Virgilio(ds, perc, vo) / Ryo Okumoto(org, mellotron) の5名。
Alan は Neal の実弟だ。一頃、Steve Morse を加えて Morse 3兄弟とする大嘘(Joke)が流行ったことがある。
Nick は、後に Cirque De Soleil (有名なサーカスね)の音楽部隊に参加したり、英国に渡って Big Big Train に加わったり、大活躍だ。彼は vo も無茶苦茶上手くて、Neal が抜けた後しばらく、リードボーカルを担当していた。dsを叩きながら歌うとなると、Phil Collins をどうしても連想するね。
Dave はベテランのベーシスト。管楽器もこなす。SB以前には、何と Animals のメンバーだったらしい。
奥本亮は日本人。メロトロン、ハモンドオルガン、ミニムーグ等のビンテージ楽器を駆使する素敵なキーボーダー。
彼ら5名のバンドメンバーに加えて、管と弦のゲストが多数参加しているのが本作の特徴だ。

Tr.1 At The End Of The Day
まるで夕焼けにつつまれた日没のような Oboe の荘厳な音から始まる。ちょっとドボルザークの新世界も思わせる。
メインテーマとともに元気一杯な演奏が始まる。Ryo のハモンドが素敵。
彼らは全員上手に唄えるので、コーラスワークが豪華で分厚く美しい。
Horn の間奏を挟んで曲調が変化し、ラテン風味に。その後も複雑に曲調が変化し、時にユーモラスな展開やヒネリも加えて、16分の大曲をまったく飽きさせずに聞かせる。このサービス精神は、アメリカ人ならではだね。

Tr.4 All On A Sunday
ハモンドのイントロから始まる明るい曲。
プログレ感は少なく、上質なポップだ。
音作りは緻密かつ高精度、無茶苦茶凝っているのだけど、聞き手にはシンプルに聞かせる。職人芸ってやつだ。

Tr.6 The Great Nothing
最後は曲長27分を超える大作。ゲスト参加の管弦の皆さんが大活躍するよ。
まず導入部だけで2:30以上あり、その中で更に複雑に展開する、鬼のような構成。Ryo の清涼感あるハモンドのフレーズにリードされて Neal の vo がスタートする。曲全体の起承転結の起の部分だけで、もう6分強だ。凄いね。
その後、ユーモラスなパート、Jazz-Rock 的な疾走パートを経て、p の短いリリカルなフレーズを挟み、11:53から b と ds によるオクターブ2音の強靭なリフにリードされてこの曲の「最初のピーク」が始まる。例えて言えば現代版 Yes かな。超絶的アンサンブルなんだけどポップ。魔法のような音楽。
その後もサービス精神一杯のてんこ盛り構成で曲調がどんどん変化し、最後までテンションを下げない。そして美しいエンディング。このエンディングだけで1:30もあるのだ。
まさに現代プログレの粋を集めた豪華フルコース。そして美しくスリリングで楽しい。素晴らしい音楽体験だ。

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