Todd Rundgren – A Cappella(1985)

2021年、新年早々の投稿は何にしようかなあと考えているうちに松が明けてしまった。
というわけで(?)、とりあえず今聞いているCDをレビューする。
「Popの魔術師」Todd Rundgren が1985年に作り上げた A Cappella だ。
リリース間もない頃にレンタルレコード屋(死語)でLPを借りてきて、カセットにダビング(二重に死語)し、主に通学の車内で聴いていた。その後CDで買い直して今に至る。
Todd については、やたらと思い入れの深い方が多数おられて、濃ゆいレビューや分析記事等が世の中に多数存在している。なので、ここでは軽~く聞き所を紹介する程度であっさり書くよ。

さて本作のタイトル A Cappella は、ご存知のように無伴奏の歌唱のこと。ソウル(ドゥーワップ等)グループなんかで良くあるお洒落なやつだ。でも本作の面白いところは、コーラスだけではなく、バンドサウンドを全部自分の声(鬼のような多重録音)でやっているところなのね。ドゥーワップのコーラスでも、ベースやミュートトランペットなんかのサウンドを声で真似て一部取り入れるというのは良くあるが、Todd は魔術師なので(?)、ドラムスやパーカッション等も含めてバンドの音を全部自分の声で作り上げている。今ならこういう音作りも Pro Tools 等で効率的に制作できると思うが、当時はまだアナログのマルチトラックレコーダーと精々Emulatorくらいしか無かったのだろうから、制作プロセスを想像するとまあ良くやるよなあと思ってしまう。魔術師というよりも偏執狂だな。もちろん良い意味で。

といった作り方なので、参加ミュージシャンは Todd 一人だけ。
ほんの一部だけ、シンセパッド等が使われているが、それ以外全て Todd の声、あるいは声を加工したサウンド。それをひたすら積み上げて曲が構成されている。少し音楽に詳しい人が聴けば、これを制作することの凄さがわかるかと思うが、それはそれとして出来上がったアルバムは素敵な楽しさに満ちたとても聞きやすい Pop だ。長年聴いている僕の愛聴盤の一つ。

Tr.1 Blue Orpheus
黒いオルフェという曲はあるが、これは青いんだよ。
ケチャでリズムを刻むというのはなかなかのアイデア。
ケチャパートになる前に、リズムセクション(もちろん全て Todd)のスネアドラムの音が既に「チ゛ャッ!」とか言っているので、それを乱打してケチャにしていると言えなくもない。
残響かけて後ろでスペーシーなバックコーラス、フロントではけたたましく刻むケチャ、それらを従えて気持ちよさそうに歌うメインボーカル。これ全部 Todd だ。いやあ楽しそう。

Tr.3 Pretending To Care
これは素晴らしい曲。
楽器音の真似はお休みにして、3~4声程度のコーラス+メインボーカルだけのこれぞ王道アカペラだ。
当時、Nylons とか好きな知人に聴かせたら、「もっと凄い、素晴らしいのがいっぱいあるよ」と返されたのを覚えている。まあ確かに。
これはね、Todd があまりあれこれ捻らずに直球勝負で作っているのが面白い。自分が好きなことを、リスペクトを込めてやっている雰囲気が伝わってくるから楽しいのだと思う。

Tr.7 Miracle in the Bazaar
いわゆるなんちゃって中東風の曲。
当時 Queen なんかも中東風の曲を書いていて、当時の雑誌記事によると在英のアラブ系の方々の購買力が強くなってきたので、マーケッティングの結果としてレコード会社がそういうのを求めるのだとか書いてあったがそうだったのかね。
高い塔(ミナレット)から拡声器で流れるコーランみたいな感じでエフェクトをかけたり、ガムランみたいに加工したり、音作りがなかなか面白い。

Tr.10 Mighty Love
これも王道アカペラ路線の素晴らしい曲。The Spinnersの名曲のカバー。
オリジナルの倍速くらいのテンポで現代的(当時)に歌う。
メインボーカルの盛り上がりったら、一人でやっているとは到底思えない。
アルバムの売れ行きは決して好調ではなかったようだが、自分がやりたいことを徹底的にやって、世界中のファンがそれを長年聴いてくれるというのは幸せなことだと思うなあ。

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