Rush – Power Windows(1985)

Prog Rock 界を代表する偉大なドラマー&パーカッショニスト Neil Peart が脳腫瘍で67歳の生涯を閉じてから半月程過ぎた。
僕は彼の驚異的な演奏や、彼が書く文学的・哲学的歌詞ももちろん大好きだったが、オフの時間に自転車やバイクで世界中を旅し、好奇心と感動を常に忘れなかった彼の生き方にとても共鳴していた。特に彼の愛車(バイク)はBMWの水平対向エンジンのもので、僕の愛車と同じエンジン型式(細かいこと書くとNeilのはアドベンチャー、僕のはロードスター)なのだよ。
彼は過去に娘を事故で亡くし、更に続いて奥さんも癌で亡くなってしまい、そのために何度か音楽活動を止めてしまいそうになった危機があったようだ。そのうえまさか本人が脳腫瘍の宣告を受けるとは、なんてこの世は残酷なのか。宣告を受けた彼は、周囲のごく一部の人達のみに事実を打ち明けたうえで、これを厳重な秘密とし、バンド活動を終息させたうえで、最後の時を彼なりに彼らしく過ごすため環境を作っていったようだ。彼が何を考え、一体どのような気持ちで最後を過ごしていたのか僕には到底わからないが、静かに、平穏に、過去の素晴らしい思い出に囲まれて過ごしていたことを願うばかりだ。
さて、その Neil が所属していたカナダの Prog バンド Rush を取り上げる。歴史が長いバンドなので、時期毎に出音がかなり変化しており、初期のまさにプログレという音が好きな人もいれば、パワーポップに接近した頃の音が好きな人もいるだろう。今回取り上げた Power Windows は、そのパワーポップ路線を取り入れて大ヒットした名作。MTVでも連日PVが流れていた。 リリース当時 、古くからの Rush ファンにはポップ過ぎて受けが悪かったそうだが、僕はとても気に入って、車の中でこればっかり聴いていた。
演奏者は、Geddy Lee(b, kbd) / Alex Lifeson(g) / Neil Peart(ds, perc) の3名。ゲストは一切呼ばず、この3名だけでこの分厚い音を作っている。まあスタジオワークで重ねているからできる部分も当然あるのだが、彼らの凄いところはライブでも3名のみで驚くほどの分厚い音世界を作り出すことだ。Geddy は b を弾きながら唄い、同時にペダルベースやキーボードも操る超人。Alex は空間系エフェクトを巧みに用いて g の音で空間を埋める。そして Neil のドラムセットは恐ろしく特異なのだ。スローンの周囲360度をキットが取り囲み、そのうち180度は概ねアコースティックなセット、残り180度はエレクトリックなセットになっている。そして時折、座る向きを180度変えて、裏側のセットを叩き始めると、ドラムセットが乗っている回転ステージがぐるっと180度まわるという何だか歌舞伎の演出みたいなケレン味もあったりする。こういう何だか信じられないレベルの超人3名が、あるときは楽しそうに、あるときはシリアスに素敵なロックを演奏してくれる。そういうバンドだったのだ。もう再結成もあり得ないわけで、この世界に残された28枚のアルバムを良く味わって何度も聴きたいと思う。

Tr.1 The Big Money
綺羅びやかなシンセが飛び交い、深めの残響で奥行きを出し、ポップさとプログレの深遠さが高度に同居している・・・ていうか、もう単純に抜群にかっこいい曲だ。この Alex のギターリフ(ドドジャーン、ドドジャーン)に惚れ込んで良くコピーしたことを思い出す。

Tr.3 Manhattan Project
ご存知、第二次大戦中の米国の核兵器開発プロジェクトについて唄ったもの。シリアスな歌詞、ドラマチックなライン、ハードな演奏、でも曲調がポップでメロディアスなので誰にでもとても聴きやすいという、まるで魔法のようなバランスを持つ曲だ。

Tr.4 Marathon
歌詞を見ながらこの曲を聴くと、最後まで自らの人生を意思を持って生き抜いた Neil の生き様が思い浮かんで涙をそそる。Neil が残した、この人生の応援歌を聴いて、最後まで生き抜きたいものだ。

Tr.7 Emotion Detector
跳ねたリズム、ちょっと東洋的なシンセのライン、哲学的な歌詞。不思議なムードを持つ素敵な曲だ。
Alex のギターソロは、アームを大胆に駆使した「はずれて暴れる」フレージングでなかなかかっこいい。

Tr.8 Mystic Rhythms
前述したように、Neil Peart は旅を好んだ。この詩はアフリカで夜を明かしたときに、遠くから聴こえてきた太鼓のリズムにヒントを得て書いたらしい。
世界を旅し、美や驚きを味わい、音楽で表現し、人々に喜びを届ける。何とも素敵な人生だと思うのだ。

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