Dire Straits – Love Over Gold(1982)

プログレ、ジャズ成分はほぼ無いが、お気に入りのロックを取り上げる。
Mark Knopfler 率いる英国のバンド Dire Straits だ。
英語で In dire straits というと、困窮したどんづまりの状況といったような意味。昔のインタビューで Mark 自身が、売れなくて食えなくて自虐的に付けたバンド名だと語っていた記憶がある。
この Mark Knopfler という人は、ピックを使わず指で g を弾くのだが、凄まじく上手いのだ。メタルの超高速ギタリストのような華々しさは微塵も無いが、玄人受けする絶妙なフレーズを、歌うように叫ぶように弾き鳴らす。Jeff Beck がある時から指弾き中心に移行したが、Mark はその前からやっている。しかも、弾きながら歌うのだからまあ凄い。

Tr.1 Telegraph Road
冒頭から10分越えの大曲。
Telegraph Road とは、米国のミシガン州に実在する道路の名前らしいが、何も無い荒野を貫いて道路が通り、その脇を延々と地平線まで電柱と電線がまっすぐ伸びているような光景は米国の至るところで見受けられる。誰かが道路をやってきて定住し、町ができ、産業化が進んで大きくなり、そしていつしか不況になって失業が増え、荒廃が始まり・・・、という興亡のドラマの中で、この「道路」が人やモノや情報を運び込み、そして厳しくなった現状から脱出する希望もこの「道路」の彼方にあったりもする。まあそんなような歌だ。
ちょっとだけ U2 の Where the streets have no name (Joshua Tree(1987))と通じるものも感じるのだが、U2 は神の伝道師なので、この名の無い道の向こうには神の王国が約束されている。だから「君を連れていく」と言ったら、きっと本心から連れていくつもりなのだ。一方、Dire Straits の場合は、貧乏をこじらせた普通の労働者達なので、「いつかここから君を連れ出すつもりだ」と歌うものの、恐らくそれは空手形に過ぎない。本人もここ(厳しい現実)から容易には出ていくことができないのはわかったうえで、名を持つ道の脇を遠くに向かって伸びる電信線に想いを託しているのだ。
さて、曲の方だが、まず Alan Clark の p が素晴らしいので、注目して聴いて欲しい。怒りに満ちた、そして格調高い演奏だ。
曲全体で14分強だが、9:33 くらいまでは前述の物語が、抑制気味の演奏をバックに訥々と語られる。そしてそこからが怒涛の盛り上がり大会になるのだ。John Illsley(b) が重低音を刻み、Pick Withers(ds) のスネアが爆発音のように鳴り響く中、Alan が p を高音連打し、サイドギターの Hal Lindes が轟音のコードを鳴らし、そこに Mark の饒舌な g ソロが延々と繰り広げられる。こじらせた貧乏のパワーを今こそ見よ、という感じだ。

Tr.2 Private Investigations
シングルカットされた曲だ。P.I.とは私立探偵のこと。フィリップ・マーロウに触発されて書いたらしい。
なぜかこの曲の邦題は、「悲しみのダイアリー」にされてしまった。まあ確かに歌詞の中に日記が登場するけどね。ヒットした「悲しきサルタン」(原題 Sultans of Swing)を踏襲したのかね。まあいいや。
曲構成はTr.1と同様、前半3:50くらいまで Mark のつぶやくような歌声で物語が 訥々と語られて、後半はインストパートになる。これがまた凄いのだ。リズムは極度に抑制的、広く空間を残した音作りで、時折雷鳴のようにギターやドラムが鳴ったりするが、語り(楽器のね)はまずアコギとマリンバ、続いて p を中心にドラマチックに進行する。これぞ大人のロックだなと思う。
車の中で聴いたり、一緒に歌ったりする曲調じゃないので、まあ良くこれをシングルカットしたものだと思うが、英国ではチャート2位まで行ったらしいから、耳の肥えた英国のオーディエンスを褒めてあげたい気がする。

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