英国のプログレロック。
バンド名にも現れているが、蒸気機関車や炭鉱等に代表される英国の輝かしき産業革命の遺産をちょっと懐古趣味的に歌い上げたり、その中に英国の美しい自然を織り込んだり、いかにも英国らしい端正で美しい音楽を作る集団である。
本アルバムは、元々 Elnglish Electric Part One(2012)、 Elnglish Electric Part Two(2013) と2枚に分割されて発表された彼らの集大成的な大作を、一部ミックスし直し、曲順を変更し、新曲も加えて、2枚組CDとしてリリースした「完全版」あるいは「ディレクターズカット」的な作品。
Tr.1 Make Some Noise
カッコ良いコーラスと fl で始まる、明るく爽やかな David Longdon 作の曲。
2009年の David の参加によって、このバンドの魅力が曲作りの面でも vo そのものについても飛躍的に向上したと僕は感じている。そして他のメンバーも皆歌が上手いので、コーラスワークが本当に美しい。ds の Nick D’Virgilio なんて、Spock’s Beard で Neal Morse が抜けた穴を埋めるべく、叩きながら歌っていた人だから当然のように上手い。
g の Dave Gregory は、ご存知 XTC の人。ポップな素敵な g を弾いている。終盤のギターオーケストレーションがかっこいい。
Tr.2 The First Rebreather
トンネル内に川が氾濫して流れ込み、多くの人が取り残された。そこに発明されたばかりの実験的な呼吸装置(アクアラング)を装着して、暗闇の中を恐怖と戦いながら潜水し、救出に向かった男の史実を描くドラマティックな大作である。Greg Spawton(b) の作。
kbd に、The Tangent の Andy Tillison がゲスト参加。
Tr.3 Uncle Jack
ゆったりした牧歌的なリズム、 楽し気な バンジョー、美しいコーラス。David Longdon 作の曲。
曲中の Uncle Jack は炭鉱夫だったようだ。きっと厳しい人生を送ってきたのだろうが、今では穏やかに犬と暮らし、庭の垣根に咲き誇る花々を眺めている。2:40 頃から、その花々の名前を数え上げる楽しいコーラス。
Uncle Jack knows a song of the hedgerows というフレーズが繰り返し歌われる。地球が太陽のまわりを公転するに従って太陽高度や、降り注ぐ光の強さが変化し、それが季節を生む。自然のリズムに従って、花々が咲き、種ができ、枯れ、その生命を繰り返す。地底の厳しい仕事から解放され Uncle Jack は、生垣が歌う自然のコーラスを聴いて、犬と暮らすのだ。
Tr.10 Hedgerow
Tr.3 の Uncle Jack と彼の犬のストーリーがここでも歌われる。
あまりにも長い間、地底で過ごしてきてしまった。ここに来て見てごらん、私が見つけた驚くほど美しいものを。ここに来ればいつでも私を見つけることができる。垣根のところにいるよ。
終盤は、涙なしでは聴けない。Uncle Jack で歌われた花々の名前を数え上げるパートが再登場。
そして Jack は犬を呼んで、一緒に歩み去っていく。一編の短編映画のような感動を覚える。
Tr.18 East Coast Racer
このアルバムにはドラマチックな名曲がたくさん収録されているが、中でもこの曲が最もドラマチックだろう。世界最高速の記録を有するマラード号という実在の蒸気機関車がテーマ。Greg Spawton 作。
5:40頃からリズムが5拍子に変化し、曲が疾走を始める。靄を切り裂いて機関車が疾走し、男たちは石炭を火釜にひたすら放り込んで蒸気圧を高める。そして、マラード号は駆け抜ける、歴史の中へ、伝説の中へ、空に向かって。11:30頃の David が “into history, into legend, she flies” と歌い上げるところでは素晴らしい音楽的カタルシスを味わうことができる。
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