前作 Bass Desires(1985) から2年後にリリースされた彼らの第2作目。前作は個人名義(Bass Desires はアルバム名)だったが、本作はバンド名義だ。
路線は前作とほぼ同じ。浮遊感と異常な緊張感を併せ持つ2人のギタリストの丁々発止?を、Jazz界随一の巧みなリズムセクションががっしり支える構図。
一応わかりやすく丁々発止と書いたが、この2人のギタリストは交互にソロ回ししたり、バックでリズム刻んだり等というふつうのことは滅多にしない。まあ John Scofield の方は、フレーズはかなり異常だけど奏法自体は普通の Jazz ギターなので、比較すればまだわかりやすい。一方もう一人の Bill Frisell については、もはやギタリストの域を超えていて、空中にペイントをぶちまけたような、しかもそのペイントが浮遊して刻々と形と色を変えていくような、不思議極まりないサウンドを醸し出すのだ。この変態不思議ギタリスト2名がフロントで作り出す綺羅びやかな音世界がこのバンドの最大の魅力と思う。
Peter Erskine(ds) と Marc Johnson(b) のリズムペアは引く手あまた、引っ張りだこの名コンビだ。Jazz の伝統を継承する王道を歩みつつも、現代的なポップなセンスも併せ持ち、豪快だが知的なサウンドを打ち出す。不思議ちゃんフロント2名を掌で遊ばせる仏様のような支えっぷりだ。
僕はこのバンドの音が大好きだったので、3枚めが出ることを強く期待していたのだが、2作で終わってしまった。Marc Johnson はこの後 Right Brain Patrol というまたまた魅力的なユニットを始めるので、そっちもいずれレビューしたい。
Tr.1 Crossing the Corpus Callosum
何やら難しい単語だが Corpus Callosum とは右脳と左脳を接続している脳梁のこと。
右脳的、左脳的ってのが、昔流行ったね。左脳が論理的・言語的機能を持ち、右脳が情緒的・感覚的機能を持つとかそういうことだったと思う。なのでこの曲名は、この後 Marc が始める Right Brain Patrol のユニット名に繋がっていく一種の宣言なんだろうと思っている。Marc のプレイは知的・クール・論理的という評価が高いが、敢えて情緒的・感覚的な音世界に踏み出していきたかったのかなと。
前置きが長くなってしまったが、曲調としては前作の Tr.2 Resolution あたりに近い、ややおどろおどろしいムードを持つ。前作の場合は、Tr.1 Samurai Hee-Haw をまず最初に持ってきてほんわかと始まったが、本作はいきなり真っ向勝負だ。
最初のうちテーマっぽいフレーズは存在するが、4分頃から Bill の逆回転ループが始まり、皆さんフリーに勝手にやり始める。Peter のおどろおどろしい太鼓連打はまるで怪談話のようだ。どんどん怪しい世界に入っていき、最後はフェードアウトで終わる。
Tr.2 Small Hands
Bill Frisell の手による美しい曲。何やら曲名も胸を打つ感じ。
前作でも Tr.3 Black is the Color of My True Lover’s Hair というトラッドの美しい曲が入っていたが、それと同じような立ち位置か。
前曲のおどろおどろしい響きですっかりざわめいた胸の内が、本曲で優しく静まる。
Tr.4 Twister
John Scofield 作のロックンロール。この頃の John は、Washington Go-Go が好きとか広言していたな。
1:23あたり、ビートルズやビーチボーイズなんかのコーラスで良くやるアー(1人)、アー(2人)、アー(全員)みたいな感じをギターで弾いていて茶目っ気たっぷり。
Tr.5 Thrill Seekers
John Scofield 作。
この曲も、前作の Tr.2 Resolution に似た雰囲気。テーマをユニゾンで弾いて、各自のソロに入っていく流れ。
John のアウトサイドを駆使した超スリリングなソロに注目。この人の場合は、スケール内の音からちょっとスケール外の音に踏み出して返ってくる感じじゃなくて、もう完全にリング外で戦い続ける、おーいいつ返ってくるんだあという感じなので、本当にスリリングなのだ。
続いて Bill のソロ。もうこの人の場合、スケールとかそういうことでは説明できない唯一、孤高の音世界。
Tr.6 Prayer Beads
曲名は数珠のこと。Marc Johnson の作によるベースソロ曲。前作 Tr.2 Resolution の導入部に似ている。
Tr.7 1951
Bill Frisell 作のかわいい曲。
もう何だろうね、このかわいさ。
Tr.8 Hymn for Her
最後はしっとり。Marc 作の素敵なバラッド。
John がつぶやくように弾くフレーズの後ろで、Bill が Pad のような音でバッキング。機能から言うとキーボーダーに近い。
Peter のシンバルワークは Jazz 界随一の巧みさ。そして Marc の温かいベースソロ。
魔法のように美しい曲だ。
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