The Prog Collective – Songs We Were Taught(2022)

先日 Bandcamp でまとめ買いをした Prog Collective (バンド名から The が取れたみたいだが本投稿のタイトルは敢えて旧名のまま)が2022年7月にリリースした作品。
同年1月に Seeking Peace をリリースしたばかりで、参加ゲストもかなり共通している。もしかすると2枚同タイミングでまとめて制作したのかも。
毎回書いているが簡単にこのプロジェクトを説明すると、Yes のマルチインストミュージシャン Billy Sherwood が企画し、Prog Rock 界のスターミュージシャン(やや過去のスターが多い)を集めて往年の名曲(プログレとは限らない)を演奏するという、Various Artist 企画モノの少し高級なヤツだ。(段々説明がザツになってきたな)
Seeking Peace の方は Billy の手によるオリジナル曲だけで勝負するというちょっとびっくりな内容だったが、本作の方は従来の「往年の名曲」路線に戻っている。
アルバム名も「僕らが教わった(教えられた)曲たち」というそのものずばり。
音楽(の楽しさ素晴らしさ)を教えられたということに加えて、恐らくはそれぞれの人生の様々な場面をこれらの名曲とともに生きてきたという、感謝に満ちた素晴らしいアルバム名だと思う。
以下、豪華ゲストに敬意を表して全曲紹介する。

Tr.1 The Sound Of Silence
ご存知 Simon and Garfunkle の至高の名曲。
ゲストは現Yesの同僚 Jon Davison(vo)、元Pendragon他の Ric Carter(Mellotron)、本プロジェクトではお馴染みのプログレ職人 Geoff Downes(kbd) の3名。
Billy は、b/g/ds/back voを担当。
恐らくは、まず Billy がベーストラックを無茶苦茶高品質に作成し、そこに Geoff と Jon が重ねて、最後に Ric Carter が Mellotron をトッピングするような感じに作っていったと想像する。要するに宅録っぽいサウンドなんだけど、とにかく無茶苦茶高品質なのね。

Tr.2 Year Of The Cat
Al Stewart の名曲。
ゲストは E-Street Band の David Sancious(kbd)、他の楽器とリードボーカルは全部 Billy だ。
元の曲の良さをそのままに、あまりいぢらず素直なアレンジで聴かせる。
Yes 関連のマルチインストミュージシャンと言えば、今や映画音楽界の巨匠になりつつある Trevor Rabin が思い浮かぶが、Trevor のサウンドはあちこちにこぼれ出る天才感が感じられて、まあ少し聴き疲れするところもある。一方 Billy のサウンドは、一聴しただけではしっとりまったり極めて素直でスリルが無い音なのだけど、聴き込むと細かいところまで良く作り込まれていて、安心して浸れるんだよね。

Tr.3 House Of The Rising Sun
元は黒人霊歌だったと思うが Animals のヒットで有名だよね。
ゲストは Gong の Steve Hillage(g)、前出の Ric Carter(Mellotron)、そして Blood Sweat & Tears の David Clayton-Thomas(vo) だ。
David は、2021年リリースの Worlds On Hold にも参加していて、アルバム最終曲の Nights In White Satin でアルバムの雰囲気が全部変わってしまうぐらいの真っ黒けな凄い熱唱をしてくれていた。
本作でも同様の路線。凄いボーカル。
僕の大好きな Steve Hillage は、特徴的なビヨンビヨンサウンドで盛んにUFOを呼んでいるのだけど、David の存在感あるボーカルにかき消されてしまっている感あり。

Tr.4 In The Land Of Grey And Pink
初っ端から3曲非プログレナンバーが続いて、このどこが Prog Collective なんだよ~と怒り始める人もそろそろ出始めるタイミング(?)で、Caravan の名曲登場。
そしてゲストとして常連の Ron “Bumblefoot” Thal(g,vo) が登場。
いやあ Bumblefoot の流麗で綺羅びやかなギターは一聴の価値があるぞ。
2:00頃から、元曲ではピアノで演奏されるキラキラしたフレーズをそのまんまそっくりギターで演奏してくれているのが、もう曲へのリスペクトが溢れて有り難い限り。
そしてそのまま驚きのフレットレスギターのソロに繋げていく。
そしてメインボーカルも Bumblefoot が担当しているのだけど、なかなか上手でしかも良い声だ。

Tr.5 Summer Breeze
70年代に全米ヒットした Seals & Crofts の名曲。Soft Rock とか呼ばれたな。
ゲストは、現代プログレ界の巨匠 Roine Stolt(vo ,g) と Rock/Fusion 界を股にかけて数多くのバンドで活躍してきた技巧派ギタリスト Steve Morse(g) の2名。
この2名ともに本プロジェクトの常連なのだけれど、共演するのは僕が知る限り初めて。
こういう巨匠同士の意外な組み合わせ共演を楽しめるのが本プロジェクトの冥利かと思う。
この曲自体はプログレでは無いのだけど、Roine の歌声と、Billy のぶっといベース音が聴こえてくるとTFKやYesをどうしても連想するなあ。
Steve Morse の出番はやや少なめ。終盤のソロは一聴の価値あり。

Tr.6 Fire And Rain
James Taylor の名曲。
ゲストは、常連 Sonja Kristina (vo)、Jethro Tull の Martin Barre(g)、前出 Ric Carter(Mellotron) の3名。
まああれだ。TVのヒットパレード番組で、往年の大御所女性演歌歌手が最後の方に登場して、さすがの存在感と抜群の歌唱力で他人の歌をその当人より上手に歌って見せる、あの感じ。
ああ楽しいなあ。

Tr.7 The Weight
この曲を知らない人はいないでしょ。
The Band の不朽の名曲。
全然プログレじゃあないけど。
ゲストは、元 The Zombies の Rod Argent(vo) と、何とびっくりお久しぶりな元 The Doobie Brothers の Jeff “Skunk” Baxter(g)、以上2名。
The Zombies って知らない人も多いかもしれないが、Santana がヒットさせた She’s Not There を元々作った方々。60年代のバンド。
Rod Argent は1945年生まれだから、収録時点で77歳か。声が若々しくてちょっとびっくり、とっても嬉しい。
そして名手 Skunk Baxter も嬉しいなあ。1:59からの響き渡る美しいソロ。Pedal Steel Guitar だと思うが、実に良い音で魂に響く。ああ泣けてくるなあ。
その後ろで曲調をドラマチックに盛り上げる Billy のドラミングも一聴の価値あり。

Tr.8 Wild World
作曲者のクレジットは Yusuf Islam だが、僕にとっては旧名の Cat Stevens の方が馴染み深い。
この名曲も多くのミュージシャンにカバーされてきたが、Mr.Big のも好きだったな。
ゲストは Rosalie Cunningham(vo) と Patrick Moraz(kbd) の2名。
まず Patrick Moraz に関しては説明不要だろう。元Yesのキーボーディストで、本プロジェクトの常連。
さて、この Rosalie Cunningham って人を良く知らないのだが、味のある堂々とした歌いっぷりからさぞやベテラン大御所かと思ったら、何と1990年生まれだから本作参加者の中では異例に若い。
Sonja Kristina お嬢(元)と、どっちの歌声が魂に染み入るか聴き比べるのも楽しいぞ。

Tr.9 It’s Too Late
ご存知 Carol King の名曲。
歌うのは何と Ritchie Blackmore の奥様 Candice Night だ。
そしてゲストがもう1名。Dweezil Zappa(g) だ。
もう何という不可思議な組み合わせなんでしょ。
普段 Blackmore’s Night とかほとんど聴かないのだけど、この曲での Candice の歌声はとっても素晴らしい。
艶があって可愛らしい声。Ritchie が惚れるのもわかる。
そしてその歌声を縫って、Frank Zappa の息子 Dweezil の技巧的ギターが切り込む。
彼は Vai や Satriani に師事した超絶技巧系ギタリストでもあるのだけれど、親父の残した楽曲を演奏する Zappa Plays Zappa なんていう素敵なバンド活動もやっていて、音楽的レンジはとても広い。
そして正しく親父の血を受け継いでいて、音楽的に変態的。
変態的なんだけど、親父ほどではなくて、もう少しバランスが取れた変態さんだ(謎)。

Tr.10 The Times They Are A-Changin’
Bob Dylan の名曲。
ゲストは Wishbone Ash の Martin Turner、前出の Ric Carter(Mellotron, organ)、そして元Mahavishnu Orchestra の Electric Violin の名手 Jerry Goodman の3名。
Martin Turner の渋い歌声も素晴らしいが、ここは是非 Jerry Goodman のバイオリンに痺れてほしい。

コメント