Bill Laurence & Michael League – Where You Wish You Were(2023)

Michael League の2021リリースの初ソロ・アルバム So Many Me のレビューをつい先週投稿したばかりだが、実はその時点で本作をAmazonで発注済だった。
ところが本日、発注先の欧州の業者(Amazonに出店しているレコード販売業者)から注文キャンセルをもらってしまった。要するにCDメディアを入手できなかった(入手の目処すら立たなかった)のだろう。
CDメディアを購入する人は少数派になりつつあり、ダウンロード販売の時代も通過し、今やサブスクリプションでストリーミング視聴する時代。それが良い人はそうすれば良いと思うが、僕のように物理媒体を買い集めるのが大好きな人もいるので、CD流通を絶滅させないで欲しいぞ。
というわけで、しょうがないから最後の手段 Bandcamp で購入し、ALAC形式でディジタルダウンロードしたよ。実はCDを購入するよりもかなりお安い。でも何だか寂しいな。

さて、話が前後して?申し訳ないが、Bill Laurence は Snarky Puppy に所属する凄腕キーボーダー、Michael League はその Snarky Puppy のリーダー兼ベーシスト。バンド立ち上げ初期からの、20年来の友人らしいが、一緒にアルバムを作るのは初めて。
Bill はアコースティックピアノオンリー。シンセは無し。
Michael は中東~北・西アフリカの弦楽器(ウード、ンゴニ)とアコースティック・フレットレスベース(及びバリトンギター)。シンセは無し。
Snarky と言えば、シンセベースと多数の打楽器(複数名のドラムスとパーカッション)が織りなす強靭なグルーブが名物であり、前述した Michael の2022のソロ作でも多数のパーカッションアンサンブルが鳴り響いていた。ところが本作では打楽器はゼロ。これがまず最初の驚き。
アルバム全体を通じたサウンドは、ジャズでもエスノでも無く、ましてやポップでも無い。Michael が爪弾くアフリカ方面の楽器音からある種の民族音楽的香りは立ってくるのだが、曲調やフレージング等からむしろ既存の「ワールドミュージック」に対して一定の距離をとろうとする気持ちが伝わってくる。これはD/L販売に添付されてきたPDF冊子に収録されているインタビューにも明言されていて、Jazz でも World でも無い我々(Our)のサウンドだと言っている。
では何なのか?とか、何に似ているとか、そういう表現をしてもつまらないので、まさに唯一無二の彼らのサウンドを味わっていただきたい。とっても素敵で、美しく、ゴージャスな音楽だよ。

Tr.1 La Marinada
二人の共作。
美しくちょっと切ないピアノ、心を鷲掴みにするウード。
ひたすら美しく、でも曲は短い。
Marinada って、料理名(日本語で言うマリネ)だよねぇ?

Tr.4 Sant Esteve
Michael 作の素晴らしい曲。
ピアノのコード進行がちょっと Snarky 的。
たった二人の演奏。でもここに何か足すことを考えて見ると、何を足しても邪魔になる気がする。

Tr.5 Kin
Bill による美しい曲。
本作の中では最も「いわゆる Jazz 的」な曲かも。
打楽器が入っていないので、明確なリズムは隠されているのだけど、ピアノの左手と Michel のベースはほんの少しだけラテンフレーバー。この少しだけさ加減がもう上品でたまらない。

Tr.8 Ngoni Baby
二人の共作。
曲名から察するに、ずっとアルペジオを引き続けるバンジョーみたいな音が Ngoni なのかな。ちょっと掠れた良い音だ。
そこにピアノとベースが入ってくる。
そしてソロはウード(だと思う)。
何かに似ているみたいな解説はつまらない・・・と書いておいて何だけど、Marc Johnson の Right Brain Patrol をちょっと想起した。

Tr.9 Bricks
Michael の曲。
やっぱりこの人の書く曲は凄いな。
強靭なリフ(アフリカ弦楽器+ピアノ+ベース)をバックに、ゴージャスなピアノのコード、二人のボーカル(うっすら)、弦楽器のソロ等が飛び交う。

Tr.10 Where You Wish You Were
二人共作によるアルバム・タイトル曲。
何だかタダモノでは無いドラマチックな(切実で悲しい)雰囲気で演奏されるのだけど、僅か1:35で曲は終わってしまう。

Tr.11 Duo
最後は Bill の曲。
二人の作風を比較すると、Bill の方が Jazz や Classic に近い上品で繊細な曲を書き、Michael はもう少し雑食的に感じる。
Duo というタイトルだけど、中間部はほとんど Bill の説得力あるピアノソロ。
その前後にピアノ+ベースによるしっとりしたパートが付いている曲構造。
ジャケット画(赤く染まる砂漠)を見ながら聴くと、ここじゃない場所に連れて行かれる、想起力強めの素晴らしい曲。

コメント