Michael League – So Many Me(2021)

米国のエリートジャズ・ファンク集団 Snarky Puppy のリーダー Michael League の初ソロ作 So Many Me(2021) を紹介する。
Michael League と言えば、Jazz に大幅にファンクグルーブを導入し、更にはモロッコやトルコ等の民族音楽を貪欲に咀嚼吸収して取り入れてきたお方。
ソロ作では、さぞやそっち方面のサウンドを突き詰めた感じなのかと思って聴くと、これがちょっと違う。
ごく簡単に乱暴に言い切ると、Tears For Fears + 西アフリカなのだよ。(え~?!)
本作リリース時のインタビュー記事等で実際に彼は Tears For Fears や Peter Gabriel のファンであり、影響を受けたと広言している。

Michael のメイン楽器はベースギターだが、本作ではエレクトリック・ベース、シンセベースに加えて多種の弦楽器とパーカッション(中東、西アフリカの)、シンセ、更にはボーカルを披露している。と言うよりも多重録音で全部一人で弾いているのだ。
特にフォーカスが当たっているのがパーカッション群。前述のインタビュー記事でも、西洋の現代音楽(Jazz, Rock, Pop etc.)におけるドラムセットの存在に疑問を呈しており、本来のパーカッションは、複数の演奏者が「互いにコミュニケートしながら」演奏するものなのに、ドラムセットの普及でいつしか一人で演奏する特殊な形態が普通になってしまったと言っていた。
Snarky でもいわゆるドラムセットではあるが奏者が2~3人同時に演奏するし、サイドプロジェクトの Bokanté にも、パーカッション奏者が3人も入っているのだが、これって相互のコミュニケーションを通じてリズムが盛り上がっていくことを意識的に狙っているわけだね。
で、本作では多重録音により一人でパーカッション群を演奏しているわけなので、少し自己矛盾を生じているのは本人も認めていたけど、意図は良くわかる。

Michael League は今年(2023)、Snarky のキーボーディスト Bill Laurence と組んで Where You Wish You Were をリリースした・・・のだけど、例によって我が国内での流通は全然細くて入手困難だ。
英国版を輸入中なので到着次第そちらもレビュー予定。
So Many Me についても、入手できるうちに手に入れておかないとあっという間に入手困難になるかも。嘆かわしいことだな。

Tr.1 Sentinel Species
のっけからもうこれは Tears For Fears でしょ。
シルキーなコーラスと素敵なハーモニー、暖かくオーガニックなパッド、そして鳴り続ける打楽器音がちょっとだけ Peter Gabriel している。
(僕は Tears For Fears と Peter Gabriel の大ファンなので、この音はとても心地よい)

Tr.2 Me, Like You
シンセベース、パッド、ボーカルだけだと、まるでDAW(PC上で音楽を演奏し録音するためのバーチャルシンセ+ワークステーションソフト)のデモソングみたいな(要するに宅内な)感じになってしまうのだけど、そこに生の打楽器群が加わることで音世界がぐっと拡大するね。

Tr.4 Since You’ve Been By
少し Jazz 成分が加わり、曲調がちょっとだけいつもの Snarky Puppy 寄りになったかな。
打楽器群が主役になり、曲を牽引していく。
ベースもシンセも、意外に上手いボーカルも、全部背景音的な立ち位置。
この、ボーカルを(サウンド的にもメッセージ的にも)楽曲のメインに置かずに、あくまでもバックに徹しているというのも、インタビューで言及していた。

Tr.7 Best Of All Time
この曲もモロに Peter Gabriel だな。
残響深めの打楽器、ミステリアスなシンセベース。
何かもうずっと聴いていたいのだけど、曲長が4分弱しかない。

Tr.8 In Your Mouth
この曲のプロモ動画が公開されている。
出だしの音は西アフリカの弦楽器にエフェクトをかけて、ファズベースみたいにしている。
多数の打楽器を駆使して低音から高音までパーカッションアンサンブルを構成しているのだが、これを一人で多重録音しているとは驚きだ。見事にコミュニケートしているよ。

Tr.10 Fireside
パーカションのハネたリズムと深い残響をかけたピアノのハーモニー。
メインのボーカルはかなり音量控えめ。
2:24頃からディストーションギターみたいな音(ギターなのか不明)のソロ。とってもカッコよろしいのだけど短くてすぐ終わる。

Tr.11 The Last Friend
優しく憂いを含んだピアノで始まるアルバム最終曲。
Tears For Fears のヒット作 The Seeds of Love(1989)の Tr.8 Famous Last Words あたりを思い出す曲調。
曲長は4:06あるのだが、曲自体は3:30弱で終了し、しばしの無音の後で何やらバンというノイズが数回鳴って終わる。ピアノの蓋を閉める音か、楽器を片付ける音だと思うのだが意図不明。(ラッパを鳴らして騒いだりはしない)

Tr.12 Save It For The Real Thing [bonus]
日本盤にはボーナストラックが1曲入っている。
これが結構楽しい。
ちょっとサンババンド(バチカーダって言うのかな)みたいなリズム体で曲を牽引していく。
あー楽しい、気持ちいい、と聞き惚れるのだけど、2:42で終わってしまう。

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