Stuart Hamm – Radio Free Albemuth(1988)

ぼーっとしていたら、1ヶ月以上当Blogを更新しないうちに年が変わっていたことに気がついたので、慌てて新年早々レビューを書くことにする。
これを書いているのは2023年のお正月真っ最中。
数少ない貴重な読者の皆様、あけましておめでとうございます。
こんなテキトーなBlogですが今年もよろしくお願いいたします。

さて、何を取り上げようかと思ってライブラリの中を色々漁ってみたのだけど、何故かお正月らしくないドヨンドヨンした怪しげなヤツとか、娯楽性の欠片もない殺伐としたヤツとか、そういうのばかり掴んでしまう。うちのライブラリにはそういうのが多いからねぇ・・・。
で、掴んだ中でややマシなこれをレビューすることにした。
考えて見れば、Stu の作品を当Blogで取り上げたことがまだ無かったし。(他のミュージシャンの作品レビューの中で彼の曲に言及したことはあるな)

Stuart Hamm は米国のRock/Jazz/Fusionベーシスト。
Joe Satriani との共演が多く、どちらかというとそっち方面で名が売れた人ではあるが、そもそもバークリー音大出身で Jazz 方面の造詣も深く、Jeff Berlin みたいなアルペジオソロなんかも超絶上手なスーパーベーシストだ。
でも知名度低いよねぇ。特に我が国では。

本作は彼のソロ第1作となる。
タイトル曲を含め、P.K.Dick の小説からインスパイアされた曲がいくつか収録されている。
ソロ2作目の Kings of Sleep(1989) でもサイバーパンクインスパイアードな曲がいくつか入っているので、SFが好きなんだろうね。
Stuart Hamm(b) 以外の参加メンバーは、Mike Barsimanto(ds) / Glen Freudl(kbd) / Scott Collard(kbd) あたりが基本で、曲毎のゲストとして Joe Satriani(g) と、何と Allan Holdsworth(g) 先生が1曲だけ参加しておられる。他にも若干kbdやpercがいるけど割愛。

Tr.1 Radio Free Albemuth
曲名は、P.K.Dick のディストピア小説のタイトルから。
残響深めのドラムをバックに、Stu のスラップベース。
そしてシンセのトゥッティ(オーケストラルヒット)が何とも時代を感じさせるね。
前半にバックでパワーコードを弾いているのは、Stu の盟友 Joe Satriani だ。
そして 2:44 頃からソロを取っているのが Allan Holdsworth 先生なんだけど、このバイオリンみたいな音は Synthaxe (ギターシンセ)だろうな。
恐らくソロデビュー作とのことで、営業的にプッシュすべく先生とジョーサトの2枚看板を投入したのだと思われるが、先生のソロはどうもあんまりやる気が感じられず、あくまでもお仕事として流している感がある・・・のだけど、そこもご愛嬌として聞き所の一つだ。

Tr.2 Flow My Tears
この曲名も有名なP.K.Dickの小説(邦題は「流れよわが涙と警官は言った」)から。
アルバム1曲目のやや騒々しい感じは収まり、しっとりと上品な曲。
文字通り流れるように美しいベースのアルペジオをバックに、ジョーサトのエモーショナルなgが涙をそそる。
4:50頃から少し緊迫感が増して、Stu は両手タッピングと思われる高速フレーズを弾き始めるのだけど、決してテクひけらかしにはせずに抑制的な大人のプレイをする。まあこういうところが今一つアルバムのヒットにつながらない原因なのかもね。

Tr.3 Dr.Gradus Ad Parnasum
ドビュッシーの有名なピアノ曲をbとkbdのデュオで。
(曲名のsが一つ少ないような気もするが、とりあえずCDの収録曲名通り)
ベーシストの超絶技巧ショウケースなのだけど、バックのkbdがやや邪魔かも。

Tr.4 Sexually Active
タッピングによるベースリフをメインに進行するかっこよろしい曲。
LPではこれがB面最初の曲。
これもTr.1と同様、シンセのトゥッティとかドラムスの音とか、如何にも80年代の音作りで、聴いていて懐かしいやら恥ずかしいやら。
曲調は都会派フュージョンぽいロックなのだが、ジョーサト兄のソロが始まるとすっかりパワーロックに化けてしまう。
続くベースソロパートが聞き所。スラップやら高速タッピングやら次々と技を繰り出す。

Tr.5 Simple Dreams
クレジットによればこの曲もP.K.Dickインスパイアードらしいのだけど、どの小説かは不明。
夢とくれば電気羊かなぁ。
kbdとbのしっとりとしたデュオ。
1:56から重ね録音で自分のベースをバックにフレットレスベースのソロ。
これがもう見事に抑制的!
音数を増やさず、弾きすぎず、決して Jaco っぽくならず。
いや、だってさ、フレットレスもったら普通大げさなビブラートとか右手で叩きつけるハーモニクスとか絶対にやりたくなるでしょ?なりませんか?
大人だなあ。

Tr.6 Country Music (A Night in Hell)
本アルバム中最大の問題作(笑)。
地方巡業ライブの収録という設定。
何やらかっこいいテックフュージョンが一曲終わり(エンディングだけ聴こえる)、MCが「さて次の曲は・・・」というところに客先から「おい踊れる曲をやれ!カントリーミュージックをやれ!おい聴こえるか!カ・ン・ト・リーだあぁ!」ってなヤジ声が入り、Stu が仕方なく渋々と(想像)ずんちゃっずんちゃってな感じのカントリー・ミュージックを演奏する。
で、通常はバンジョーで弾く典型的な高速フレーズをベースで弾いちゃうのね。
やっていることは超絶的に物凄くテクニカルなんだけど、演奏している曲がおバカな感じのカントリー(大変申し訳無い)なので、もはやテクニックの無駄使い感が極めて強い。
一曲演奏し終わったところでまたヤジ声が飛び、「へーい!今度はポルカだぁ!」というオチが付く。
以前、本人によるアルバム解説を読んだことがあるのだが、米国のど田舎に巡業で行くと実際にそういう経験をするらしいぞ。怖いなあ。

Tr.7 Moonlight Sonata
アルバムの最後はベートーベンの月光ソナタをkbdとbのデュオで。
ため息が出るような美しい演奏。
前のおバカな曲との落差が激しいが、このしっとり感こそが Stu の本来の持ち味と思われ、かなり無理矢理に軌道修正をしてアルバムが終わる。

大好きな作品で、30年以上も聴き続けているのだけど、まあ売れないよなぁこれじゃ(笑)。

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