Derek Sherinian – The Phoenix(2020)

プログレ・メタル界におけるワーカホリックの一人、Derek Sherinian の新譜が届いたのでレビュー。
Black Country Communion(BCC), Sons of Apollo(SOA), Portnoy Sheehan MacAlpine Sherinian(PSMS) 等の数多くのプロジェクトを並行営業中なので、その手の音楽が大好きな僕としては財布の紐が緩みっぱなしなのだが、自身のソロ作としては実に Oceana(2011) 以来ということになるので、まあ本当に忙しかったのだろう。
本作は前作と同様に、Derek Sherinian(kbd) と、斯界の巨匠 Simon Phillips(ds, produce) の2人がメイン、そこに曲毎に異なるゲストを加えて、いつも通りの豪華で贅沢な1枚に仕上げている。
Simon は、今ではフュージョン系プロジェクトの Protocol で有名だが、古くは Jeff Beck の There and Back(1980) 等に参加し、Rock 界における天才ドラマーの一人だった。10代で 801 バンドに抜擢されたのも有名な逸話。Jeff Beck 大好きな Derek にとって、ヒーローの一人なのだろう。その胸を借りてソロを作るなんて幸せなことだ。
他のゲストは曲毎に変わるので曲紹介と併せて。

Tr.1 The Phoenix
のっけからアルバムタイトル曲。
ゲストは、Zakk Wylde(g), Billy Sheehan(b), Armen Ra(Theremin) の3名。
イントロの轟音ギターみたいなソロは Derek のシンセ。ライブではこの音で Eddie Van Halen のマネとかやるんだよね。
で、この曲の始まりは Star Cycle で、Simon の疾走ドラムが入ってからは Space Boogie になる。もう実にわかりやすく、Jeff Beck 大好きサウンド。
Zakk のワイルドなギターと、Derek のギターそっくりサウンドが交互に出てくるので、聞き分けると(あるいは混乱すると)面白いよ。

Tr.2 Empyrean Sky
ゲストは、Jimmy Johnson(b), Ron “Bumblefoot” Thal(g) の2名。
曲調は、Derek らしいSFチックなフュージョンだが、Planet X みたいなキレた感じはあまり無く、実に落ち着いた感じ。Simon も Jimmy も、もうそれなりのお年だからなあ。Virgil Donati がいないと、こんなに曲調が落ち着いちゃうんだねえ。Bumblefoot もおとなしく弾いている。

Tr.3 Clouds of Ganymede
ゲストは、Tony Franklin(b), Steve Vai(g) の2名。
曲調はこれもSFチックで、過去ソロ作の Atlantis とか Antarctica みたいな雰囲気で曲が始まるのだが、1:53あたりから Steve Vai が弾き始めると途端に Vai ワールドに全部持っていかれる。3:50あたりから の Steve と Derek の絡みやハモリが美しい。なお Derek のギターそっくりサウンドは、この曲では Steve Vai そっくりサウンドに進化を遂げて、更に聞き分けが難しくなっているので楽しいよ。

Tr.4 Dragonfly
ゲストは、Ernest Tibbs(b) のみ。
ピアノトリオでアコースティックに多少 Jazz っぽく弾いているのだけど、タイム感は完全に Rock で、ゴリゴリしたサウンド。

Tr.5 Temple of Helios
ゲストは Tr.2 と同じ Jimmy / Bumblefoot 組。
大仰なイントロ、テーマユニゾンに続いて、Jazz Rock 風の曲調になる。Bruford みたい。
終盤 5:10 くらいになって Bumblefoot のソロ。でも短い。

Tr.6 Them Changes
Buddy Miles の曲。ゲストは、Ernest Tibbs(b) と Joe Bonamassa(vo, g) の2名で、Joe のソウルフルな歌唱が聴きどころ。
Buddy Miles と言えば思い出すのが、Jeff Berlin のソロ2作目 Pump It!(1986) のアルバムタイトル曲。Buddy がゲスト参加して歌っているのだが、実に生き生きとしていて聴いていて楽しかった。彼は当時もう既に過去の偉人扱いになっていたのだが、本人はこの仕事がよほど楽しかったらしく、Jeff Berlin に「この面子でしばらくやろうぜ~」と盛んにもちかけたと聞く。長々と余談を書いてしまった。
Joe のソウルフルなボーカルパートに続いて、Joe のロックなギターパート。続いて Derek の歪ませたオルガンソロ。別営業中の BCCでお馴染みの、70年代のハードロックを現代に蘇らせたような、オールドロックファンの財布を直撃する音。

Tr.7 Octopus Pedigree
この曲も Jimmy / Bumblefoot 組が参加。
Planet X 風の派手な曲。
2:10頃、中盤のここぞというところで、Derek が、まるでギターみたいな音でまるで Bumblefoot みたいな変態ソロ。で続いて Bumblefoot が、変なシンセみたいなギターらしからぬ音で、まるで Derek のようなソロ。君たちは一体何をやって遊んでいるのか。

Tr.8 Pesadelo
Armen Ra(Theremin), Tony Franklin(b) そして Kiko Loureiro(g) がゲスト。
曲調は、7拍子・ラテン風・メタルフュージョンとでも呼べば良いのか。Mythology(2004) の Tr.4 El Flamingo Suave みたいなやや本格的なラテン風曲ではなく、あくまでもフラメンコ風のフレーズと Kiko のアコギソロを彩りとして散りばめたメタル。
終盤、Kiko の高速シュレッディングソロが登場し、やっぱこれメタルでしょ?と気づく仕掛け。

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