1981年リリース作のレビューがまだ無かったので拙宅のライブラリをつらつら眺め、以前から「これはレビュー書いたらいかんやつや」と避けて通っていた本作を取り上げてみることにした。ついふらふらと。
なぜ避けていたかというと、御大Milesの作品については、プロからアマまで、あまりにも多くの評論家・レビュワー達が隅から隅まで語り尽くしていることと、中でも本作はうるさがた心からの Milesファンの方々にとっては評価が芳しくない作品だから。
例えばJazz好きな知人と雑談していて、Milesの作品の中でどれが好きかと問われ、本作の名前を挙げたりした瞬間に会話は止まり、知人の視線は彷徨い、しばしの沈黙の後、「あ、ところでさ、このあいだレコード屋で面白いもの見つけたんだけど」とか全く別の話題が唐突に提示されて、まるで本作の話題なんて何も無かったのごとく雑談が続けられる・・・、まあ相当誇張しているけどそういう扱いを受ける作品だったりする・・・かもね。
70年代後半の御大は、Jazzシーンからすっかり退場してしまっていた。表面的には酒とクスリでボロボロになっていたのが理由だが、まあそういうものに手を出してしまう真の理由(当時の米国の世相、音楽的煮詰まり、燃え尽き等々)があったんだろうね。そのあたりは世の中の数多のBLOG等に書かれているので各自調べてくだされ。
ここで大事なのは、本作がボロボロになっていたMilesを表舞台にカムバックさせるための周囲の涙ぐましい努力の産物であること。そしてMiles自身ももがきながら作品を作っていく中で、エンジンに再び火がともり、若手ミュージシャンを取り入れながらその後の活躍に通じるクロスジャンルな作風を開拓していったこと。本作を Miles のソロ作としてではなく、Vincent Wilburn、Robert Irving III、Marcus Miller 等によるプロジェクトものとして聴くと、色々感じるところがあるよ。
Miles Davis(tp) 以外の参加ミュージシャンは、前述の Vincent Wilburn(ds)、Felton Crews(b)、Robert Irving III(syn)、Randy Hall(syn, vo) のA組と、Al Foster(ds)、Marcus Miller(b)、Sammy Figueroa(perc)、Bill Evans(ss) のB組が曲によって参加。他にギタリストとしてTr.1 だけ Mike Stern 、他のTrは Barry Finnerty が弾いている。
このA組、B組ってのは、要するに最初はA組で作り始めたのだけど、Miles のエンジンがかかってくると色々物足りなくなってきて、凄腕の若手を呼んできてB組に入れ替えていったという経緯。つまりこのアルバムに収録された6曲の録音中に、御大の「復活」が現在進行系で記録されているわけだ。当初A組で吹き込まれたテープのかなりの部分を、御大が気に入らず廃棄してしまったと聴く。しかし、決してA組のサウンドを気に入らなかったわけではなく、その証拠に次作の Decoy(1983) やその次の You’re Under Arrest(1985) あたりの作品は作曲とアレンジのかなりの部分を Robert Irving III が担っていたりする。廃棄されたマテリアル、聴いてみたいよね~。
Tr.1 Fat Time
初っ端はB組+Mike Stern の演奏。時間軸的には恐らくこれが最後に吹き込まれた曲のはず。というのも、Barry Finnerty が御大の指示に従わずにクビになって Mike が呼ばれたということらしいので。
Marcus Miller のスラップ・ベースが超かっこいい。Al Foster の、スネア中心の乾いたドラミングと素晴らしいマッチング。
そして Mike Stern のハードロックな轟音ギター。
帝王復活アルバムの幕開けを飾る斬新なJazz。
Tr.2 Back Seat Betty
これはB組+Barry Finnerty の演奏。Barry もかっこいい轟音ギターを弾いているよ。
Tr.3 Shout
これがA組+Barry Finnerty の演奏。
作曲のクレジットは Glenn Burris だが、Randy Hall と Robery Irving III の寄与も大。
確かにB組の奏でる現代的(その後のMiles的)かっこいいJazzとは少し異なる曲調なのだが、ちょっと哀愁が混じった都会的Popなサウンドが僕は結構好きだったりする。
Tr.4 Aida
今度はB組+Barry Finnertyの演奏。
Marcus のBから始まるのだが、これがもうかっこいい。
Barry の g も素敵。
そして復活した Miles のホーンは生命力と喜びに満ちあふれている。
Tr.5 The Man With The Horn
説明は不要とは思うが、タイトルの「ホーン(喇叭)を携えた男」とは Miles のこと。
これはA組+Barry Finnerty の演奏。そして Randy Hall が素晴らしい声で歌う。
Miles 的には色々試行錯誤してB組を以て完成形に辿り着いたわけだけど、アルバムタイトルにはA組のこれを持ってきたわけだ。
甥っ子の Vince (Willburn) はきっと嬉しかったと思うよ。
御大はまだ復活途上で、tpにエフェクトをかけてちょっと誤魔化している。でもここから復活は始まったわけだ。
Tr.6 Ursula
イントロからの Marcus のプレイに惚れた。
B組+Barry Finnertyの演奏。
既に御大は完全(ではないかもしれないが)復活している。
作曲クレジットは御大だが、まあ Marcus あってのこの曲だろう。
Miles Davis のバンドは、Miles 学校と称されるように過去数々の名プレーヤーを育てて世に出していったわけだが、Marcus Miller もその一人となっていくのだ。
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