Kalman Filter は、The Tangent の Andy Tillison によるソロプロジェクト。
ごく少数のゲストは参加しているが、ほぼ全ての楽器を Andy が演奏している。と言っても大半の音はソフトウェアシンセとDAWで作っているのだけどね。
因みにプロジェクト名の Kalman Filter ってのはディジタルフィルターのアルゴリズム(設計法)の一種で、世の中の多くの自動制御機器で用いられている。ロケットの軌道や姿勢の制御等にもね。如何にも Andy Tillison Diskdrive (自分がそう名乗っている)らしい工学チックなネーミングだ。
さて中身のレビューに入る前に、本作の入手経緯について書いておく。ちょっと長いよ。
元々は The Tangent の Proxy(2018) というアルバムの最後(Tr.6)にExcerpts from Exo-Oceans という名前でボーナストラックが収録されている。それを聴いてとても気に入り、Exo-Oceans なるアルバムを入手しようと考えたのが最初。
Andy の Kalman Filter プロジェクトの作品であることはわかったが、2021年時点でCDメディアはほぼ流通していない。海外のAmazonでもダメ。
あと可能な選択肢としては Bandcamp で Digital Album を購入するか、Andy Tillison が運営しているオンラインショップ(The Tangent Store)で購入するか。僕はできれば物理的なメディアが欲しい人なので後者を選択。送料込みで約17ポンド(日本円で2600円くらいか)、Paypal 決済でポチっとしたのが7月末。
その後ショップから連絡も何も一切反応無しで5週間が経過し、ショップページのコンタクトフォームから問い合わせしたが無反応。以前にもミュージシャンのオンラインショップで購入したけど無反応という事故(あれは Mats&Morgan の Morgan のショップだったな)を経験しているので、やむを得ず Paypal のクレーム機能を利用して連絡した。
これでようやく反応があり、「ご注文のCDはリリース日未定の pre-order だから気長に待ってね(はーと)ちゃんと書いてあるんだけどね」みたいなお返事がショップ運営事務方の女性(その後よ~く確認したところ、お返事の書き手は Andy Tillison のパートナーである Sally Collyer さんご自身と判明!)から届く。要するに今年発売予定の The Moons of Neptune の注文と勘違いしたみたい。
ようやく連絡がついたので、この女性事務方(じゃなくて Sally さん^^;)に、僕が注文したのは2018年リリースのこっちだよん!在庫あるなら早く送ってよん!とお願いしたらさすがに恐縮したのか、「すぐ送る!Andy から今日中にお詫びもさせる!」とのお返事があり、間もなく Andy Tillison ご本人からのとても丁寧な謝罪メールをいただいたうえに、アルバム収録曲のディジタルデータ(.wav)と、収録しなかったボツ素材を9曲分くらいいただいてしまったのだ。
ということで、今レビューを書きながら聴いているのは、Andy Tillison から送ってもらったディジタル音源であり、CDメディアは未到着(本当に来るのかな・・・)なので、もしかしたら曲長とか異なるかもしれないことは注記しておく。あと今から購入する人には、Bandcamp をお勧めするよ。
(19/Oct./2021付記)注文後2ヶ月半経過、女性事務方(しつこいけど Sally さんね^^;)からのお詫び(すぐ送る!)から5週間経過、本日現在相変わらずCDは未着(笑)。しつこくならない程度に催促メールを出して見るが、本当に入手できたらここにまたご報告する予定。
(14/Dec./2021追記)20/Oct.に軽く催促メールを出してみたら Andy 本人から「自分で4マイル向こうの郵便局までバイクでCDを発送しに行ってついでにワインを買って帰ってきたのに到着しないとは!よ~し絶対送っちゃる!僕らは君に絶対にCDを渡したい!もう一回出してくるから待っててね!」とのお返事をいただいた・・・のだけど、約2ヶ月経過した現時点で未着だよん。英国の郵便事情というか社会インフラの信用ならん状態が覗えるな。もう何だか Andy に気の毒なので(CD配送より音楽活動に集中して欲しいので^^;)もう催促は控えようかと思うが、3年ほど過ぎたらまたメールしてみようかな。
さてここからようやく中身の話になるが、本作の音はジャンルで言えばいわゆる Berlin School というやつか。Tangerine Dream とか Kraus Schultz とかそのあたり。遡ればケルンで生まれた実験音楽から続く由緒正しい Ambient な電子音楽なんだけど、クラブカルチャー以前のフォーマットなので、リズムはおとなしめ。で Andy はそこにちょっと Jazzy な味付けを持ち込んで、ひたすら心地よい音空間を作っている。
Tr.1 Karus
本作には3曲収録されているが、曲名は全部謎。
この Karus って、もしかすると Kraus のアナグラムかな。(Kraus と言えば Schultz ね)
この1曲目だけゲストで Matt Stevens(g) が参加している。
ソフトウェア音源は Spectrasonics Omnisphere/Keyscape、Native Instruments Pro53/Abbey Road Drums、Steinberger Padshop 等。リアルな楽器としては Arturia 等のシンセと、ハモンドオルガン、GEM Promega2 Piano 等。
全長14:30程の曲のうち8:30くらいまでリズム無しのサウンドスケープが続く。酩酊感を十分楽しんだところにドラムが入ってきて如何にも Andy Tillison らしいちょっとAORっぽいお洒落な曲調になっていく。10:30頃からのハモンドのソロと、続くAcid Jazz的なトランペット音(シンセ)が素敵。
Tr.2 Veltorn
アコギの音からスタート。Andy が弾いているみたい。
フレーズの断片が浮かび上がっては消え、内省的な曲調が続く。3:30頃深い残響をかけた金属音が鳴ったり、いわゆるミュージックコンクレート的な世界に。
7:30頃シンバルと電子音でリズムが始まり、Tangerine 的な音世界に突入。その後も何度かインテンポなパートと、フリーで内省的なパートを行ったり来たり。
Tr.3 Jornakh
この曲の冒頭部分10:26が、前述したように Proxy のボートラとして収録されている。
曲の冒頭からリズミカルで Jazzy でお洒落に始まるが、2:50頃ドラムがフェードアウトし、ドラマチックなピアノソロを挟んで酩酊感強めの Acid Jazz 的音世界に入っていく。
8:50頃のフルート音(シンセ)は、Berlin 的電子音楽のアイコンだ。(Kraftwerkとか)
その後に続く Prog + Funk + Jazz + AOR みたいなサウンドは、本作後の The Tangent にも取り入れられた。かっこいいねえ。13:19頃からのブラスセクションを聴いてほしい。
さて前曲同様リズミカルだったり内省的だったり行きつ戻りつしながら21:10頃にフェードアウトするのだが、曲長は42:18あるのね。残り21分何が入っているのかというと、ほぼ無音なんだけどものすごく小さく全く聞き取れないかすかな音が鳴り続けている。(サウンドメーターが反応している)
じゃあ最後にラッパとか吹き鳴らしながらおバカっぽいことやるのかと思えば、42:00に Andy の声で “Alexa, play Slow Rust by the Tangent” って言って終わる。
21分待たされてこれがオチですか。
まあ面白いっていえば面白いんだけど、 Party Shuffle でうちにあるCDからランダム演奏しているときにこのトラックが入ると強制的に21分の無音を聴かされることになってしまうので困ったな。編集しちまうわけにもいかないし。
おまけ: Andy Tillison からいただいたボツ素材について
前述したようにショップ不手際のお詫びとして Andy から本作のデジタルデータとともにボツ素材を9ファイル送っていただいた。公開したりお分けしたりはできないが、どういうものか簡単に触れておく。
・”Scar” 14:40。本作の Tr.1 Karus の開発中バージョン。
・”Angram” 18:06。本作の Tr.2 Veltorn の開発中バージョン。
・”Angram” の part1 部分。7:37。Soundcloud で Andy が公開しているファイルと同じだろう。
・”Leight” 20:43。本作の Tr.3 Jornakh の開発中バージョン。
・”Leight” のより古いバージョン。10:28。
・”ABANDONED TRACK” 25:44
・”Figures In A Landscape” 15:43
・”flecks on the lens” 23:10
・”Massive thing that probably won’t be used” 35:15
リリースされた作品と同様のクオリティでは無いのだが、本作と併せて聴くと作曲者の精神に入り込むことができるような気がしてちょっと面白い。
Thank you so much Andy. My best wishes.
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