Big Big Train – Common Ground(2021)

2ヶ月ぶりのCDレビューとなる。
もともとそれほど高頻度に書いてきたBlogでは無いのだが、なぜこれほど放置してしまったのかというと、遅まきながら David Longdon の訃報を知って、その衝撃がある程度収まるまで何も書けなくなってしまったというのが理由。
彼が事故で亡くなったのが 2021/11/20、でもぼーっと生きている僕が訃報を知ったのは2022年の春になってからだった。
Big Big Train は僕の大好きなバンド Top10 に間違いなく入るバンドなのに、2021年にリリースされた本作も(当然2022年リリースの Welcome to the Planet も)訃報を知るまで未チェックだったし、世のアルバムレビュー等にも目を通していなかった。David Longdon の遺作となった・・・とあちこちに書いてあるのにね。
ということで、遅まきながら本作を含むBBTの諸作を毎日のように聴いては、David の豊かな才能と素敵な歌声に聴き惚れるとともに悲嘆に暮れるなんてことを続けていたので、Blog更新が止まってしまっていたのだ。
お気に入りのミュージシャンが、最も油の乗った活動を繰り広げている絶頂期に命を失ったこと自体の衝撃。それはそれなりの衝撃だったのだけど、まあ人は誰でも死ぬのだから仕方ない。
それよりも、本作を含むBBTのこれまでの作品を聴きながら、心の中で次第に大きくなってきた衝撃とは、今後、二度と、絶対に、David Longdon の作る/歌う/演奏する新たな音楽作品を聴くことはできないのだという当たり前の事実への恐怖だった。
言葉ではうまく説明できないかも。
さて、BBTへの新ボーカリスト(Alberto Bravin)加入も発表され、僕の中の衝撃も何とか和らいできたので、本作をレビューする。
まだエネルギー不足気味なので、うまく整理がつかない。かなり冗長な書き方になるけれどご勘弁を。

本作はヘタウマ?ジャケット画の Grand Tour(2019) から2年を経てのリリース。
(そのジャケット画を描いた Sarah Louise Ewing は、David Longdon のパートナー)
その間、重要なメンバーチェンジがあった。
Dave Gregory(g) 、Rachel Hall(vln)、Danny Manners(kbd) の脱退。
純粋にスタジオプロジェクトだったBBTが次第にライブを志向するようになり、ツアーに出たくないという理由で Dave は脱退したらしい。年齢や家族のこと、コロナ禍、英国人器質、まあ色々あるだろうけど、大好きなギタリストなので残念。
Rachell Hall の脱退理由は不明なのだが、BBTの音楽にはバイオリンと女性ボーカルが必須なので(ある意味彼女のおかげで必須になってしまったので)、本作にはバイオリニストと女性ボーカルが参加している。
Danny Manners の脱退についても不明だが、先に脱退した創設メンバーの Andy Poole 在籍時には Rikard を含めて鍵盤弾きが3名もいたわけで、彼らの複雑な楽曲をライブ演奏するためには必要だったのだろうが、コロナ禍でライブができなくなったからね。
ということであらためて参加メンバーを書くと、
Gregory Spawton(b) / Nick D’Virgilio(ds, vo) / Rikard Sjöblom(kbd, g, vo) / David Longdon(vo)
の基本4名に加えて、
Carly Bryant(vo) / Dave Foster(g) / Aidan O’Rourke(vln)
のゲスト3名+曲によりブラス隊という構成。
ゲストバイオリニストのクレジットが混乱していて、世の評論サイトによっては Clare Lindley と記されていることも多いのだが、CDのクレジットを見る限り本作は Aidan のみ。Clare は次作から参加。

さて、本作を通しての感想を先に書くと、もうこれは English Electric 以来の大傑作でしょう。
何より楽曲が素晴らしい。
最も多くを書いている Greg Spawton の作詞/作曲能力は相変わらずの高水準。英国らしい憂いを含む叙情的で端正な響き。そしてlyricシートを見ながら聴くと、詞が詞として既に素晴らしいのだ。
David Longdon の曲は元気いっぱいで爽やか、Nick D’Virgilio の曲はスリリングで楽しい。
演奏面では、Rikard Sjöblom の屋台骨感が従来より増した。kbd に g に vo に大活躍。お願いだから脱退しないでね。

Tr.1 The Strangest Times
David Longdon 作によるキラキラと明るく爽やかで元気いっぱいの曲から幕を開ける。
English Electric Full Power(2013) の Tr.1 Make Some Noise みたいな位置づけか。
ds / b / p / vo の比較的シンプルなフォーマットなので、そのままライブで演奏できそう。
3:20からゲストの Dave Foster の伸びやかな g ソロ。上手い。

Tr.2 Black With Ink
Greg Spawton の曲。
Greg 以外の4名(David、Carly、Rikard、Nick)でボーカルパートを交替しながら歌うのが楽しい。
Carly さん、良い声してるな。

Tr.5 Headwaters
本作の楽曲はTr.1-4がPart1、Tr.5-9がPart2という組曲編成になっており、この曲はPart2の序曲だ。
RikardとGregの共作で、Rikardがソロで演奏している。
2分強の短い曲なのだけど、これがもう見事にBBT魂を継承する素晴らしい曲になっているのだ。
TFKのアルバムで Zach Kammins がTFK魂を継承する美しいソロを弾いているが、それと拮抗するよ。

Tr.6 Apollo
Nick の作。鍵盤系もかなりNickが弾いている。
BBTというより、やはり Spock’s Beard みたいな高エネルギーな感じ。
Greg の曲ばかりだと、憂いと郷愁でまったりしてしまうので、若手(当社比)の元気な曲が少し入るのは効果的だと思う。

Tr.7 Common Ground
David 作のアルバムタイトル曲。
冒頭の歌声を聴いていると、彼の表情やステージアクションが脳裏に浮かんでくるなあ。

Tr.8 Atlantic Cable
Greg 作の大曲。
大西洋を渡って欧州と米国を繋ぐ海底ケーブルについての歌ってのも Greg らしい。
知識こそがパワー(海底ケーブルによりインターネットは支えられている)、時間の壁を克服し距離を縮め世界を一つに、人類を一つにする、そういう内容だ。
ついでに書くと、本作全体を通して分断を乗り越え「一つになる」というのがメインテーマ。

Tr.9 Endnotes
Greg によるアルバムの、Part2の終曲。
「日が沈んで」からの終盤、ブラスが加わってからの高揚感が素晴らしい。
そしてこの曲における David Longdon の歌唱こそがベストなのではないだろうか。
これを書きながら聴いているのだけれど、まだ涙を浮かべずに聴くことができない。
素晴らしい音楽を、心に響く歌声をありがとう。David Longdon の魂よ安らかなれ。

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