最近は音楽関係のネットニュースもあまり読まずに隠者のような暮らしをしていたので、John Goodsall が11月11日に亡くなっていたことを何と今日(12月21日)まで知らなかった。
68歳か、まだまだ若いのになあ。
John と Percy の2人さえいれば他のメンバーは誰でも良いから、Brand X の名前でもう一度来日して欲しかった。
何が Brand X を Brand X 足らしめているのかという議論を始めると空虚な論争になりそうだが、John Goodsall 無くしてこのバンドが成立しないということについては議論の余地は無いだろう。
ということで、Percy Jones と Robin Lumley は、今後もう Brand X という名称でのバンド活動は一切行わないことを宣言したようだ。
さて John のご冥福を祈りつつ、未レビューだった彼らの作品を今後こつこつレビューしていこうと思う。
まずは彼らの最高傑作と評価する人も多いスタジオ第2作目の Moroccan Roll を取り上げる。
このアルバム名は “More Rock’n Roll” をもじった冗談らしいが、作品には Rock’n Roll 風味は微塵もない。
では何風味なのかと言うと、これが形容し難いのだ。
アルバムタイトルと、Tr.1 が中東エスニック風の味付けなので本作を「中東やアフリカの音楽を取り入れた・・・」みたいに紹介する底の浅い記事も多いが、Tr.2 以降は全く雰囲気が異なるよ。
そもそも大括りで Jazz Rock と称しているが、音楽的な意味で Jazz 的なコード進行やモードが取り入れられているわけでもない。他の「何風」とも形容できない、そもそもこの世の音楽では無いような、非日常な音世界。これが病みつきになるんだよね。
本作のメンバーは、Percy Jones(b) / Phil Collins(ds) / John Goodsall(g) / Robin Lumley(kbd) / Morris Pert(perc) の5名。Brand X は何度もメンバーを入れ替えつつ継続していったが、この時のメンバーが最強と言えるだろう。
Tr.1 Sun in the Night
Phil Collins がサンスクリット語で歌う中東風の不思議なナンバー。
John Goodsall の作品。彼はフェイズシフターがかかったギターによるバッキングに加えて、ソロでシタールも弾いている。
この Phil のボーカルと、爽やかな John のギターまでなら風変わりな Pop チューンなのだが、そこに Percy の不思議変態ベースがどよよんと乗ってくるともう説明できない世界に突入する。
そもそもアルバムの最初にこの曲を持ってくる発想と、そこに異界の音を強く持ち込む発想がもう常人には理解し難く、中毒になって何度も聴いてしまう。
Tr.2 Why Should I Lend You Mine (When You’ve Broken Yours off Already)
茶目っ気のある長いタイトルの曲。Phil の作品。
彼らの前々作 “Unorthodox Behaviour”(1976) と、前作 “Livestock”(1977) の音世界に近い、いわばこれぞ Brand X といった曲。
Phil のドラミングに乗ってゆらゆらと心地よいテーマが続くが、5分弱のところでリズムと曲調が変化しやや内省的に。
最初は「何であんたなんかに貸さないとなんないのよ!自分のは壊しちゃったくせに!」とか威勢よく怒っているのに、でも段々と「ちょっと可哀想だし・・・」となってくる。そして次の曲へ。
Tr.3 …Maybe I’ll Lend You Mine After All
続けて Phil の作。
タイトルは前曲から繋がっているが、音楽的には全く異なり、深いエコーをかけたピアノと Percy のフレットレスベースによるデュオローグ。(ボーカルも遠くに聴こえる)
で、結局貸しちゃうのね(笑)。
貸しちゃった!ではなくて、貸しちゃいそう!なのがかわいい。
Tr.4 Hate Zone
John の作。
この曲はちょっと暴力的でカッコよろし。独特のテーマフレーズが癖になる。
中盤の John の鬼の速弾きソロも素晴らしいが、終盤3:50頃からの象の雄叫びのようなフレーズ(シンセなのかエレキGなのか)が印象的。
Tr.5 Collapsar
Robin Lumley 作のファンタジックでメランコリックな短い間奏曲。
タイトルは縮退星(自身の重力で潰れた天体)の意味。何やらドラマを感じる。
Tr.6 Disco Suicide
彼らの代表曲。これも Robin の作品。
割とセッション風な曲が多い中にあって、Robin Lumley の曲はきちんと細部まで構築されている印象がある。
4:11頃からリズムが高速になり、Phil の名人芸ドラミングが聴きどころ。
そして5:35頃から終盤のドラマチックなパート。Phil のコーラスも入り、ゴングも鳴り響く。
もうこれでアルバムを終えても誰も文句無いと思うのだが、本アルバムはここからが凄いのだ。
Tr.7 Orbits
アルバム最後の盛り上がりを前に短い間奏曲。Percy 作のベースソロ。
前々曲が Collapsar、これが Orbits で、最後が Macrocosm と何やら壮大な宇宙を感じさせる。
Tr.8 Malaga Virgen
続けて Percy 作の名曲。
最初から Phil のドラミングが飛ばしまくって大変なことになっている。
そして曲を見事にドライブする Percy の変態リフ。
もう何度も聴き惚れているうちに、この Percy の変態フレーズを口ずさめるようになった。
中盤、ラテン風味が加わり大盛り上がり大会。その後チルアウトし幽玄の世界へ。そして再び Phil が疾走を始め大団円へ。
もうここで終わっても誰も文句無いのだが、ここから更に凄い世界へ!
Tr.9 Macrocosm
John の作。
これこそ非日常の凄まじい曲。
何でこんな音楽を発想できるのだろう。
謎めいたアルペジオとこの世ならぬベース、その上で幽玄なシンセによるテーマ。
2:55から曲が疾走し、John と Robin の火が出るようなソロ回し。
さながら2つのブラックホールが互いの重力に引かれて互いの周囲を回り合い、最後に衝突して大爆発するような。
いやほんとに、曲の最後は客席に爆弾を落として大爆発で終わるのだ。
エンディングパートで大人っぽく締めたり、フェードアウトで終わらせるという選択をしなかったことを褒めてあげたい。そうここまで盛り上げてしまったら、もう全部吹き飛ばすしか無いよね。
あーもう John Goodsall の作るぶっ飛んだ素敵な音楽を聴けないのかと思うとやけに悲しい。
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