Sevara Nazarkhan は、中央アジアのウズベキスタン出身の歌手。
その筋の音楽に興味ある方々を除くと、彼女の存在が一般向けに広く知られるようになったのは、Peter Gabriel の Growing Up ツアーへの参加からではないだろうか。この公演はとても素晴らしい映像作品(Growing Up Live – 2003年のミラノ公演)として販売されているので、ご興味あれば是非見ていただきたい。名曲 In Your Eyes で彼女の魅力的なボーカルを聴くことができる。
彼女の歌声に惚れ込んだ Peter は、自らのツアーに参加させ、自ら主催するワールドミュージックレーベル Real World Records から本作をリリース。その前から母国ウズベキスタンではかなり有名なポップシンガーだったらしいが、本作によって一挙に世界的に認知されることなった。実は僕も、Peter の DVD で彼女の歌声に出会い、本作を買って惚れ込んだ口だ。
さて、クレジットが少なくて参加ミュージシャンが良くわからないのだが、Sevara が Dotar (ネックが長く2弦の琵琶みたいな撥弦楽器)や Saz (同じくネックが長く2弦で細長い三味線みたいな撥弦楽器)を弾きながら唄う以外は、Hector Zazou がバックトラックの大半の音(クレジットでは Kbd, Loops)を作っているようだ。ベースはウズベキスタンの民族音楽なのだが、音作りは現代ポップ、適度に(かなり抑制気味に)電子音も使い、テンポはゆっくり目、リズム隊も控えめ。結果的に Sevara の歌声が前面に浮き出て、とても気持ちよく聴いていられる仕上がりだ。これ以上トラディショナル方面に振っても、エレクトロ・アンビエント方面に振っても、残念な結果になるところを、丁度よいバランスを狙っている感じ。何だろね、こういう感じ、最近では「オーガニック」とか形容するのかな。
その Sevara の歌声について。前述した Peter Gabriel のDVDでは、驚くほどの音域を駆使して高らかに歌い上げるパワフルな歌唱を聴くことができるが、本作ではもっと普通にしっとりと唄っている。その声が良いのだよ。加えて、こぶしの回し方が特徴的。
一曲だけ(Tr.10)、変態ギタリスト David Fiuczynski がクレジットされているのだが、どの音なのか聞き取れず、参加しているのかどうか良くわからないのが残念。
Tr.1 Yor-yor (Song to the Bride)
Dotar の音って、琵琶よりも津軽三味線に近いかな。三味線用語で言うところの「さわり」(振動する弦にわざと楽器の一部が当たるようになっていて、一種のビビリ音が出る)がはっきり出て、とても存在感のある良い音だ。えーと僕は Dotar と Saz の違いを聞き分けできていないので、以下 Dotar と書いている箇所はもしかすると Saz なのかもしれない。予めお詫びしておく。
バックトラックではシンセとか電子音が鳴っているのだが、Sevara の艷やかな声と Dotar の音が前面に出るので、デジタルっぽさが無い。
Tr.2 Soqinomai Bayot
曲自体はいわゆるアンビエント的なフォーマット。でも、Tr.1と同様、彼女の声と Dotar が生命感を伝えてくるので、聴いていてとても心地よい。
Tr.5 Yol Bolsin
アルバムタイトル曲。
ゆったり鳴るパーカッション隊と、超重低音で支えるエレクトリックベース。お囃子的に入るギターのカッティングとシンセ。Acid Jazz ってのはあるけど、Acid 民謡だな。酩酊感を伴う気持ちよさ。
Tr.10 Yallajonim (My Dearest Song)
前述したように David Fiuczynski(g) がクレジットされているのだが、どこにいるのだろう。Saz か何かでずっと通奏されるリフをユニゾンで弾いているギターらしき音も聴こえるのだが、これなのか?謎だ。
コメント