元はLD(レーザーディスク)で発売された映像作品のサウンドトラックとして制作されたが、後に独立した音楽作品として発売されたもの。この頃に日本で制作された Richie の作品には優れたものが多いね。
演奏者は、Richie Beirach(p)、富樫雅彦(perc)、日野皓正(cornet)の3名。本作では、特に、富樫の緊張感溢れるプレイが聴きどころだ。空間が変質する程の凄まじいテンション。Richie が弾く、氷の刃のような硬質なpと相互作用して、つい正座して聴きたくなる。
そういえば、Richie が麹町のTokyo FM ホールでソロコンサートをやったのを聴きにいったことがあるのだが、ホール自体は比較的デッドに作ったうえで、ピラミッドの頂点にスピーカーを配置して電気音響で残響を加えるという当時最先端のホール(まあ電気音響を嫌う人も多かったのだが)に、彼の硬質かつリリカルなピアノがとても良くマッチしていた。メソニックテンプルで自然な残響を利用した一発録音をやったのもこの頃だった気がする。
Tr.1 Stone
富樫の作曲。Richie と富樫のデュオ。パーカッションの音色がとても色彩豊かだ。録音技術が素晴らしいのだろう。両名の掛け合いで熱量は高まっていくが、汗臭くならず乾いているところが良い。
Tr.3 Ayers Rock
Richieのソロを挟んで、この曲もRichieの作だが、演奏に日野が加わってトリオ編成に。元々映像作品にあてた音楽ではあるが、音だけ聴いてもとても映像的だと思う。太陽高度の変化に伴い Ayers Rock が刻々と色調を変えていく様子がありありと見える。
Tr.4 Boomerang
日野の作で演奏はトリオ。アボリジニに伝わる伝統的なリズムを題材にしたらしい。ユニゾンで繰り返されるテーマフレーズが親しみやすく、曲構成も明確なので、本アルバムの中では比較的聴きやすい部類なのではないか。
Tr.5 Arid Rain
Richie の曲で演奏は富樫とのデュオ。指でピアノ弦を弾くプレイが強い緊張感を醸し出す。
Tr.6 Johnny. B.
最後は Richie のソロ。
この曲は彼が Dave Liebmann と組んだQuestであるとか、彼の他のアルバムで何度も演奏されているが、本作での演奏がベストだと思う。
確かこの曲のタイトルは、亡くなった自身の父親の名前(Johnny Beirach)から付けたとどこかで読んだように思うが、今調べても出典が見つからない。
導入部の音列は、和声と非和声の狭間を知り尽くした彼ならではの、崖っぷちをなぞるような緊張感溢れる美の極致だ。ジャズフレーズのいわゆるアウトサイドとも異なる気がする。何故そこにこの音を置くのか最初は不思議に感じるが、何度か聴くうちにもうここにはこの音がなくては成立しないことがわかる。例えようもなく叙情的なのに硬質。
硬質と言えば Steinway の高音弦って、本当にガラスのようなきれいな音が出るよね。
1:55から本来のテーマが始まる。緊張と緩和が、大きな構造でも短いフレーズ中においても繰り返され、最後は暖かい大きなものに包まれて終わる。素晴らしい曲だ。
コメント