Simon Phillips – Protocol V(2022)

つい先日(2023/3/28)来日して、青山のBlue Note Tokyoで素晴らしいライブを聴かせてくれた Simon Phillips 先生の現時点最新作を取り上げる。
いやあ先生とはずいぶんと長いお付き合い(801だのJeff Beckだの・・・)なんだけど、このBlogではまだ一度も作品をレビューしていなかったな。

デビュー当時から神童と呼ばれた天才ドラマー Simon Phillips 先生。
若い頃は Rock 業界を中心にツーバス連打とオープンスタイル(またはオープンスタンス。両手を交差させず右手でスネア、左手でハイハットを叩く)を駆使した手数の多いドラミングでファンを沸かせてきたが、共演した Jeff Beck の影響なのだろうか、次第に Jazz 寄りの Fusion に接近し、そして1988年にリリースした初ソロ作 Protocol(1988) は堂々の、王道のFusion名作となった。
この Protocol というアルバム=単発プロジェクトがその後 Simon 先生のライフワークプロジェクトに発展し、2022に Protocol の第5作である本作がリリースされたという流れ。
因みにこの初ソロ作 Protocol だが、全ての楽器を一人で演奏しているんだよ。カッコよい曲を書き、全ての楽器を演奏し、更にはミックスやエンジニアリングまで自分だけでやってのけるという、もう信じがたいレベルの超人なのだ。

さて、先生の Protocol シリーズの第2作以降は、凄腕ギタリストの客演が一つの名物となっている。
2と3では Andy Timmons、4では Greg Howe、そして本作では Alex Sill が参加。
Alex は、Andy や Greg と比べると少しギタリストとしての出発点が異なる印象。
先輩2名はどちらかというと Rock 業界出身で、Shredding からTech Fusionに移ってきた感じ。ところが Alex 君は最初から Alan Holdsworth であり、Scott Henderson であり、時には Pat Metheny な感じだ。つまり Rock ネイティブでも Jazz ネイティブでも無く、最初から(変態)Tech Fusion 育ち。純粋培養された Fusion の子。

他のメンバーも紹介する。
Ernest Tibbs(b) は、もう長いこと Simon 先生と一緒にやっている重鎮。
Otmaro Ruiz(kbd) は、ベネズエラ出身の凄腕 Jazz キーボーダー。
Jacob Scesney(sax) は、本作で始めて登用された若手。Protocol 1-4までは Sax や Horn は参加していなかったのだけど、何か今回は曲的にギターとSaxのツーフロントにしたかった模様。

Tr.1 Jagannath
イントロのシーケンスパターン(を繰り返しながら徐々にLPFのCut-offを開いていく感じ)がモロに Star Cycle なのはご愛嬌。
Simon 先生は、自身がプロデュースした Derek Sherinian のソロでもトニーハイマス時代の Jeff Beck っぽい音を出しているので、本当にこれが好きなんだろうな。
曲名の Jaggannath ってのは、インド神話の神様のお名前なんだけど、その神様を祀るお祭りで巨大な山車が練り歩き、そいつに轢かれて死ぬと極楽に行けるみたいな物騒なお話で有名。発音的にはジャガンナトなんだけど、ジャガーノートとカタカナ化した映画もあったな。
Star Cycle っぽいイントロの直後にペンタトニックのユニゾンとともにドラムがカットインしてくる一瞬だけ、インドというか John McLaughlin 的な印象が漂う。そこを除けばインドっぽさはあまり無く、むしろ Chick Corea Elektric Band だなこれは。
フロントにギターと Sax を配置して、ユニゾンやハモリでキメフレーズを演奏させるってのは、80年代 Fusion とか、それがガラパゴス化して東洋の一角で生き残った Japanese Fusion の特徴なのだけど、まさにそのサウンド。僕は大好きだけど、今の人にはさすがに古臭く響くかも。

Tr.4 Undeviginti
イントロのクラビっぽいシンセの音が、トニーハイマス時代の Jeff Beck の・・・。おんなじやんけ。
この Jeff Beck ぽっさに加えて、本作を貫くもう一つの特徴がペンタトニックの多用。
曲名や曲調から、インドっぽさ(=Mahavishnu リスペクト)を意識しているのだろうと思うが、21世紀型の和声が超複雑進化した Fusion と比べると多少古臭く、でも耳が疲れず、聴きやすい。

Tr.6 Dark Star
何だか El Becko なピアノ。
そして虚空から舞い降りるギターのメインテーマの朗々とした響きよ。
亡くなった Jeff Beck 大先生が降臨されたかのような、懐かしくも嬉しいサウンド。

Tr.7 The Long Road Home
本作はほぼ全て Simon 先生が一人で作曲しているのだけど、この曲だけは Ernest を除く4名で共作しているので、少し印象が異なる。
誤解を恐れずに簡単に表現するならば、より Jazz 的であり、そして少しだけ Pat Metheny っぽい。
Blue Note Tokyo のライブでは、Alex 君がアコギとルーパーを駆使した幻想的なソロをプレイし、そのままエレキに持ち替えてこの曲を演っていた。思うにこの曲の作曲にも彼が深く関わっているのかも。
各自のソロ回しが終わり、6:44あたりから曲調がますます Pat Metheny 的になっていき、8:00あたりの Otmaro のピアノはもう完璧に Jazz の人。
そして大団円に向けて転調を繰り返し、最後は Otomaro のピアノで静かに家路に辿り着く。
いやあ見事な曲ですよ Simon 先生。
Jeff Beck っぽいのも懐かしフュージョンも好きだけど、こんな感じで若手と共作するのも良いね。
Protocol VI も首を長くしてお待ちしま~す。

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