John Goodsall の訃報に接してから、ゆるゆると英国の Jazz Rock グループ Brand X の諸作をレビューしているが、今回はスタジオ4作目 Product を取り上げる。
本作後の Do They Hurt? や Is There Anything About?、更にその後の再結成作についてはちょっと別物(作品として決して劣るわけではない)として捉えているので、Livestock を含めて本作までの5作品が僕の中でのオリジナル Brand X のアルバムと感じている。なので、Brand X 全作レビューは本作で一旦終える予定。
さて、参加メンバーが多忙になり集まるのが困難になったのか、それとも人間関係で何か引っかかりが生じたのかその経緯はわからないが、本作はオリジナルメンバーのうち John Goodsall & Robin Lumley が参加する曲と、John Goodsall & Percy Jones が参加する曲がきれいに別れてしまった。もう少し話を整理すると・・・
[A組]
Peter Robinson(kbd)
Percy Jones(b)
Mike Clark(ds)
Morris Pert(perc)
John Goodsall(g)
[B組]
Robin Lumley(kbd)
John Giblin(b)
Phil Collins(ds)
John Goodsall(g)
という感じに2つのユニットに分裂し、CDの曲順で言えば Tr.2,4 がA組、Tr.1,3,5,6,8,9 がB組による演奏となっている。(Tr.7 はベースデュオなので別編成)
曲数から言えばB組が本作におけるメイン編成とも思える。
Robin は前作では後任の Peter に鍵盤演奏者の座を受け渡して Producer 業に専念することにしたはずなのに、本作では再び鍵盤の前に立ってプレイしている。なお 本作の Produce にも関わっていないようだ。
Phil Collins は、Genesis が超多忙になって一旦抜けたはずだがカムバック。叩いて歌って大活躍。
そういう意味ではB組の特徴を一言で言うと大物復帰者チームという感じか。
そして彼らが選んだベースプレーヤーは John Giblin だった。
Percy と双璧を成す程のフレットレスベース巧者であり、数々の名作に参加している売れっ子スタジオミュージシャン。
日本の歌謡曲やロックのアルバムレコーディングにも多数参加していて、井上鑑の架空庭園論なんてオススメである。
一方のA組は、前作 Masques に参加したメンバーのうちドラムスだけ Chuck Burgi から Mike Clark に交替したという編成。
つまりA組は前作踏襲メンバーだ。
John Goodsall だけ、両方の組に参加している。言わば要の存在。
さて、1作品の中でA組/B組と別れて・・・ってのは良くある話で、Yes の一時期とか Miles のヤツとかその事情も含めて色々面白いのだが、本作の場合は恐らくバンドメンバーを大きく入れ替えた1978-1979の時期に亘って製作されたので、最初の頃と最後の方でメンバー編成が異なるのだろうと推察している。
以前レビューした Brand X – Livevox: The Official Bootleg 1976 – 1979 (2020) という6枚組ライブ集に、丁度その時期の彼らの活動が収録されており、’78/8 時点は Masques とほぼ同じ編成(但し John は不在)、’78/11には Chuck Burgi が抜けて Mike Clark に交替しており、’79/9 には Robin Lumley と Phil Collins の大物組が復帰するとともにまだ Peter Robinson も在籍している。
つまり、A組で製作開始したものの製作途中にB組の編成に入れ替わっていったのだろう。
Tr.1 Don’t Make Waves
アルバムの幕開けは、Phil Collins の歌声から始まる。
ファン待望の復帰。演奏はB組。
作曲は John Goodsall だ。ジャズっぽさもプログレ感もあまり無く、爽やかなポップロックチューン。
この爽やかさは、一には Phil の甘いボーカル、二には John Giblin の異界に行かないベースから来るものだろうな。
つい Phil のボーカルに耳を持っていかれるが、超タイトで細かい技を繰り出す名人ドラミングを是非聴いていただきたい。
Tr.2 Dance of the Illegal Aliens
数少ないA組の演奏。作曲は Percy Jones だ。
題名の Illegal Aliens は宇宙人では無くて不法在留外国人のことね。
Genesis にもずばり Illegal Alien という楽しい曲があったな。
この曲では Percy Jones の名人芸を堪能していただきたい。
謎めいたグリッサンド、不思議なハーモニクス、地面を這い回る重低音。
B組と比べるとポップさ(売れ線ぽさ)には大きく欠けるが、Jazz Rock バンドとしての本来の音はこっちだと思うぞ。
Tr.3 Soho
Phil と John Goodsall の共作。
ボーカルも二人でハモっている。
演奏はB組。
John Giblin の真面目で職人っぽい仕事ぶりを聴いていただきたい。
短めだけれど、楽しくてカワイイ曲。
Tr.4 Not Good Enough – See Me!
数少ないA組の演奏。Percy と Robin の共作。
Mike Clark が頑張っている。タイトで技巧的なドラミング。
その上で Percy Jones がシンプル(彼にしては)なリフを弾いている。
2:37 頃から、ハーモニクスとグリッサンドを駆使した唯一無二の Percy のソロ。
40秒程度のソロなのだが、これを聴くだけでもアルバムを購入する価値がある。
いやほんと名人芸、人間国宝、世界遺産。
5:38頃から、ちょっと不思議なリフ(ペンタトニックなんだけど終止音だけ6度)のユニゾンが始まる。裏拍でシンバルを鳴らす Mike Clark のプレイも面白い。
この曲の後、しばらくは Percy とお別れとなる。
Tr.5 Algon (Where An Ordinary Cup Of Drinking Chocolate Costs £8,000,000,000)
Robin 作、B組の演奏。
出だしこそ John Goodsall の曲みたいなロックっぽい感じだが、その後は Moroccan Roll 等を思い出すような幽玄な世界へ。Robin Lumley のエレピは良いねえ。
Phil Collins は歌無しだが、ドラムスに加えてパーカッションも叩く大活躍。
Tr.6 Rhesus Perplexus
アコギが印象的なラテン風味の小曲。演奏はB組。
これが何と John Giblin の作曲。大したもんだ。
歌うように叩く Phil のドラミング、歌うようにうなる John Giblin のフレットレスベース。
素敵な Robin Lumley のピアノと John Goodsall の名人芸アコギ。
素晴らしい。
Tr.7 Wal to Wal
さてお待ちかね、新旧フレットレスベース巧者対決の巻。
演奏は Percy Jones + John Giblin 、後ろでチャカポコ鳴っているのは Phil Collins がプログラミングしたリズムマシンだが、そこにオーバーダブして生のドラムスも叩いているよ。
曲名の Wal というのは、有名な高級手作りベースギターのブランド名。
この二人がどちらも Wal ユーザーなのね。だから Wal 同士の対話というわけだ。
Tr.8 …And So To F…
Phil Collins 作の、疾走感と叙情が溢れる佳曲。演奏はB組。
John Goodsall によるドラマチックなイントロから続く導入部。拍子は4+3+2かな。ビブラフォン(かな?)がリズムをリードし、Phil が無茶苦茶細かい技巧的なバッキングをしている。その上で気持ち良さげに朗々と弾く John Goodsall のギター。
大盛り上がりの中、最後はフェードアウトして終わる。
Tr.9 April
John Giblin 作のほぼベースソロ小曲。(他の楽器もSE的に被されてはいるが)
これが素晴らしいのだよ。
鳥がさえずり、小川流れる4月。おだやかな春の空気が伝わってくる。
でも2分少々しか無いのですぐ終わってしまう。
あーもっと聴きたいという声が多かったのだろうね。
Is There Anything About?(1982) には、この曲の長尺バージョン A Longer April が収録されている。そっちは7分もあり、ドラムス、ギター、そしてサックスなんかもかっちりと上に乗せられている。
でも聴き比べるとどうもつまらない。やっぱり、本作の短いバージョンの方が、より春らしく、より幻想的でぐっとくる。
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