John McLaughlin – Floating Point(2008)

例によって、リリース年インデックスを見て 2008 年がまだ空白なのを発見し、本作を選んでみた。
John McLaughlin については説明不要と思うが、Jazz界の生きた伝説でありながら、バリバリの現役かつ最先端のギタリストであり続けている偉大なお方。1942年生まれだから、2020年現在でもう78歳か。元気で世界中をツアーで飛び回っている驚くべき生命体だ。
少し前、2014年に都内でライブ(4th Dimension)を見たが、John のお顔はツヤツヤとしてシワもなく、髪もふさふさ。ギターの運指も相変わらずの超高速で衰え知らず。今後も多分余裕で300歳くらいまでお元気でおられよう。
さて、本作は John が、インドの若いミュージシャン達と組んで作り上げた作品。とはいえインド伝統音楽をリスペクトした Shakti とは方向性が異なり、あくまでも西洋的な現代 Jazz/Fusion をやっている。
参加ミュージシャンは、John McLaughlin(g, g.synth) / Hadrien Feraud(b) / Ranjit Barot(ds) / Louiz Banks(kbd) / Sivamani(perc) の5名が基本。曲毎に若干のゲストが参加している。
ここで注目すべきは Ranjit Barot だ。本作の成功が契機となり、John と Ranjit は本作の路線を踏襲した 4th Dimension を立ち上げることとなる。また本作で名前が売れたので、Ranjit はソロ作 Bada Boom(2010) をリリースすることができた。別途レビューしているのでご興味ある方は是非。
John と共に欧米側ミュージシャンとして Hadrien Feraud が参加しているが、どうやらアフレコで彼だけ別録音で被せたらしい。リズムセクションの一体感が素晴らしいので、何度聴いてもアフレコとは思えない。プロって凄いね。

Tr.1 Abbaji(For Alla Rakha)
曲名にある Alla Rakha とは、インドの伝説的タブラ奏者の名前。Abbaji は彼の愛称。なおタブラ奏者と俳優業の二足のわらじで有名な Zakir Hussain は Alla Rakha の息子らしい。
ゲストで George Brooks が Soprano Sax で参加。
キーボードと Soprano Sax が奏でる爽やかで美しいゆったりしたテーマの後ろで、打楽器隊が無茶苦茶細かいリズムを叩き出している。さながら優美な白鳥が水面下で足を激しく掻いているように。(全然わかりやすくない例え)
で、John はどこにいるのかと言うと、ギターシンセでゆったりチームに参加。あくまでも自分は引き立て役ということなのだろう。大人だなあ。

Tr.2 Raju
ゲストでインドのスライドギター奏者 Debashish Bhattacharya が参加。
John はギター(シンセでは無く)で参戦し、いつものガチガチのインド風高速フレーズを弾いている。
Ranjit のドラミングはシンバル多め、おかずたっぷり、タム回しマシマシのパーカショニスト風スタイル。うるさいとか叩きすぎと嫌う人もいるらしいが、僕は彼のドラミングスタイルがお気に入りだ。ドラムセットではなく、両手両足でタブラを演奏していると思えば良し。

Tr.3 Maharina
4th Dimension のアルバム The Boston Record(2014) でもこの曲のライブ版を聴けるよ。
Louiz Banks がピアノで奏でる美しい旋律と躍動的なリズム。
John は、ギターシンセでまったりプレイ。

Tr.6 Inside Out
Sivamani の Konokol (口パーカッション)で曲が始まる。
ゲストで U. Rajesh (electric mandolin) が参加。独特のしゃくるようなチョーキングとグリッサンドがとてもインド的。そこに John のギターが高速ユニゾン。
終盤、John のソロの後ろでリズム隊の大活躍が凄い。それにしても、Hadrien の b がきれいに一体化していて、到底アフレコとは思えず。もの凄い。

Tr.7 1 4 U
曲名は One For You の意味でしょう。
コーヒーのCMにでも使われそうな、とっても爽やかな曲調。
ゲストで Naveen Kumar(Bamboo Flute) が参加。この人の演奏が面白いよ~。笛とは思えない超高速かつ滑らかなフレージングと、油を塗ったようなグリッサンド!(笛で一体どうやって?)
どうやら彼自身の発明で、竹製の横笛の中に弦を張ってあるらしいのだが、何がどうなっているのかわからん。
後半、John のギターシンセと Naveen の Bamboo Flute の掛け合いが続くのだが、「スリリングな」という感じではなくて、何だかものすごくハッピーで、僕はつい笑顔でニヤニヤ聴いてしまう。

Tr.8 Five Peace Band
ゲストを含めれば6名で演奏しているのだが、何でこの曲名なのかね?Hadrien がその場にいなかったから?
そのゲストは Niladri Kumar(Zitar) という方。前曲のゲスト Naveen Kumar と血縁関係(兄弟?)なのかなと思うが不明。
で、この Zitar とは、インドの有名な伝統楽器 Sitar (シタール)をもっと手軽に演奏できるように、エレキギターの構造を取り入れ、更に弦の数を20から5に減らした楽器。Niladri Kumar 自身が発明し、Amazon 等でも販売されている。音はちょっとチープなエレキギターなのだが、左手側が Sitar と同じ構造(フレットがものすごく高く、押弦しても弦が指板に接地しない)になっており、エレキギターのような水平ビブラートではなく指板に垂直にビブラートやベンドをすることができる。なので、インド風のフレーズを弾くとちゃんと Sitar 的に聴こえるのだ。Tr.6 の electric Mandlin ともちょっと似ているよ。
楽器の説明に終始してしまったが、この曲も生命感に満ち溢れ、何だか楽しくハッピー。皆さん楽しみながら演奏している様子が伝わってくる。これが John のお元気の秘訣なんだろうね。

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