中学3年生の初夏の頃(城山隆さんの「僕らのヤングミュージックショー」によると、’76年6月20日の放送らしい)、今では伝説となったNHKのヤングミュージックショーというロックのライブを放映する素敵な番組に Yes が登場した。インターネットも衛星放送も無く、ロック系音楽雑誌だって Music Life と Rockin’F くらいしか無かった?時代。僕は Yes というバンドの名前だけは知っていたけれど、彼らの音を聴いたことは無かった。
そして初めて体験するプログレッシブロックの驚くべき音世界。夢中で聞いている中、3曲目が始まる。John Anderson の曲紹介があり、Allan White のBDとシンクロした Chris Squire のリッケンバッカー(B)が重低音のDをドドドドッドドッと刻み、Allan がチャイムをシャランと鳴らし、 Steve Howe がギターを胸に高く構えて牧歌的なコードを奏ではじめる。これを聞いた瞬間、僕の脊椎下部のあたりから上方向に向けて震えが走り、感動で全身が鳥肌立ちになったことをはっきり覚えている。生涯を通して、実際に全身に鳥肌が立った音楽体験なんて2,3回しか無いのだが、その最初の体験がこれ。名曲 And You And I とのファーストコンタクトであった。
当時の僕の家には、ステレオセット等という高価なものは無く、普通のレコードプレーヤーすらなく、あるのはラジカセだけ。それでも感動を忘れられず、貯めたお小遣いで Close to the Edge を買い、友達の家でテープに録音してもらって毎日聞いていた。つまりこのアルバムは、僕が生まれて初めて買ったLPなのだ。
その後の長い音楽遍歴で、Yes についても多くを知ってしまった現在、このときのライブ(1975年の Queens Park らしい)は Bill Bruford も Rick Wakeman も抜け、職人肌の名人だった Allan White はまあ良いとしても、Patrick Moraz が不評で、数ある Yes のライブ映像の中でも決してベストとは呼べないものであったとは思う。それでも素晴らしい音楽に触れて得た感動は本物であり、その後の人生を豊かにしてくれたことは間違いない。僕にとって、Yes というのは音楽の素晴らしさを文字通り骨の髄まで教えてくれた、恩師のようなバンドなのだ。
あー我ながら文章の湿度が高いね~。曲紹介は簡単に。
Tr.1 Close to the Edge
LPのA面全てを使った超大作。その後、プログレ界では10分を超える曲というのが普通になったけれど、その先駆者と言えるかな。4パート構成の組曲形式になっている。このアルバムのレコーディング時の人間関係のトラブルの話を良く目にするけれど、まあこれだけの緻密な超大作を「話し合いながらゼロからその場で」作っていたら、頭が変になったり人間関係が煮詰まるのもわかるよね。
パート3 “I Get Up I Get Down” で、重層的なコーラスが高まっていき、Rick Wakeman のパイプオルガンが鳴り響くところが聴きどころ。Rick Wakeman がライブに、ポータブルパイプオルガン(と言っても超デカイ)を導入して話題になったこともあったな。サンプリング楽器が登場するまで、プログレバンドの物流面の苦労は大変だったのね。
Tr.2 And You And I
記事の最初の方でいっぱい書いてしまったので、もうあまり加えることも無いのだが、あと一つだけ。
僕は、繰り返される Chris の「ドドドドッドドッ」というDの音にかすかに長3度上の音(F#)を感じるのだ。なので、以前はてっきり複弦ベースを使っているのかなと思っていた。ちょっと考えれば複弦を長3度で張ったりしたら、フレーズには使いづらくて使い物にならないだろうにね。
その後聞いた話では、Chris は元々煌びやかな高音が強く出る Rickenbacker に、新しいおろしたての弦を張ったブリブリの音が好きだったらしく、とにかく高頻度に弦を張り替えていたらしい。このブリブリ音のハーモニクス成分が聞こえるのかねえ。でも4度や5度じゃなくて、長3度なのよ。不思議なことに。
Tr.3 Siberian Khatru
この Khatru が何なのか、全世界のYesファンの間で議論が続いている。John の造語説が有力だが、John 自身がインタビューで、Khatru はイエメン語で As You Wish の意味だと答えている記事を yesworld.com で見つけた。まあ、(多分天から降ってきた)意味不明の単語を繰り返し繰り返し歌っていて、後からその単語を人に調べてもらったらそういう意味だとわかったとか答えているので、普通それを造語って言うんだよ John 。
この曲のハイライトは、7:00頃からの「ダッ、ダッ、ドダードダー」コーラスだろう。こういう奇想天外なアイデアを優れた楽曲に仕立て上げてしまうという点で、やはり当時の Yes は唯一無二のバンドだったと思う。
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