僕のお気に入りの英国Prog Rockバンド The Tangent の新譜を紹介する。
リリース前からプロジェクトリーダーの Andy Tillison が Facebook でバラしていたが、今回は T41 (The Tangent For One=一人タンジェント) と称して、全ての演奏を一人でやっているのが聴きどころ。
全員解雇か、はたまた空中分解かと心配したが、そういうことは全く無くて、単にメンバーが集まるタイミングがなかなか取れなかったので(元々マルチプレーヤーの Andy が)全部自分でやっちまったらしい。
この The Tangent というバンド、最初は一回限りのスーパープロジェクト(2003年の The Music That Died Alone)から始まった。
Andy Tillison + TFKの主要メンバーみたいな顔ぶれで。
そこから実に20年以上も続いてしまっているわけだが、Andy Tillison 以外のメンバーはしょっちゅう変わっている。
まあ要するに Andy の個人プロジェクトみたいな位置づけだ。
ここんとこのメンバーが比較的安定していて、Jonas Reingold(b) とか Luke Machin(g) とか Theo Travis(sax) といった百戦錬磨のスーパープレーヤーが在籍しているので、その路線の音ももっと聴きたいところだが、今回は一回休みで Andy オヤジの一人舞台を楽しもう。
ということなので、メンバー紹介としては Andy Tillison お一人のみ。
本業は kbd と vo だが、それ以外の全て(b、ds、g、ウィンドシンセ等)も全部演奏している。これが想像以上にお上手。全然安心して聴けるぞ。
作曲も当然ながら全部 Andy の筆。
Tr.1 The North Sky
アルバム一曲目から、スカッと爽やか血湧き肉躍るかっこいい Prog Rock ナンバー。
オルガンロックのフォーマットなので、オルガン+ドラムス+ベースが骨格。
オルガンは本業なので当然上手い。驚くのはドラムス(電子ドラムらしい)が意外なほど安定してお上手なことと、ブリブリなベースの音が気持ち良いこと。(もしかすると Jonas になり切って弾いているのかも)
中間部でリリカルなウィンド楽器の音が入るが、これもウィンドシンセで Andy が吹いているとのこと。(これも気分は Theo になり切っているのかな)
8:19 頃、展開部に入って独特のブラスっぽい(ブウァッブウァッ)シンセ。この音どこかで聴いたなあと探してみれば、Frank Zappa の Eat That Question の後半に出てくるヤツとそっくり。
10:30 頃、ねちっこいギターソロ。(これはさすがに Luke に全然なり切れず、あんまり上手くない^^;)
Tr.2 A Like in the Darkness
前作(Songs From The Hard Shoulder(2022))あたりから続くちょっと暗いムードの曲。
3:20 頃からちょっとフリーでドリーミーな世界に。
King Crimson の Moon Child に、Andy Tillison の別プロジェクトの Kalman Filter を足したような、つまり Jazz と Berlin school 的な電子音楽が一体化した感じ。
Tr.3 The Fine Line
これも以前から続いている AOR/Funk 路線の曲。
Steely Dan とか好きならオススメ。
これはクラブとかで生で聴きたいなあ。もちろん本来のフルメンバーで。
6:15からの盛り上げ方が、もうさすがの Andy 節。
ほんとにグッとくる。
Tr.4 The Anachronism
20分超えの大曲。
静かなイントロから、いきなりツーバス連打みたいな激しい曲が始まり、七色に曲調を変化させる。
10:00頃から Andy オヤジのボヤキと毒吐きが始まる。
言ってること(政府批判等)は辛辣だけど、曲は凄い。様々な音楽ジャンルのmixtureなので、ちょっと Pain of Salvation あたりを連想したり。
まああれだな。
電車の中とかでこういうことをブツブツつぶやいていると危ない変人として逮捕されかねないが、こうして立派な音楽に仕上げてアルバムリリースしてしまえば、世界中の人々に喜んでボヤキを聴いてもらえるし、本人も毒を出して健康に生きられるのだから、お互いに良きことだな。
ちょっと茶化して書いてしまったが、21:02の長尺曲なのに長さを感じず、曲展開の妙に感心し、上げたり下げたりの気分変化を楽しみ、終盤部の王道Progらしい天に登っていく感動的フレーズ(The North Sky再登場)に聞き惚れるうちにあっという間に終わる。素晴らしい大曲。
Tr.5 The Single
これが事実上のアルバム最終曲。
ボーカル(コーラス)メインの軽快なロック。
”Trevor Rabin 時代の Yes っぽい”という海外レビューを読んだ。
そうかもね~。
本アルバムの全体を通して、ブリブリベースの存在感が強いんだけど、特にこの曲ではフレージングも含めて Chris Squire へのリスペクトを感じる。
Tr.6 The North Sky(Radio Edit)
曲タイトル通り、Tr.1の短縮ミックス。
軽快で素敵な部分をぎゅっと煮詰めているので、本アルバムのプロモート用には最適だと思う。
なお、本アルバムには Limited Edition なるものが存在し、この後にボートラ”Tea At Bettys”が収録されているらしい。僕が Bandcamp で購入できたのはスタンダード盤なので、残念ながらこのボートラは未聴なんだけど、Jazz と Zappa を混ぜ込んだ実験的な曲らしいので、探してそっちを買えば良かったなあと後悔しきり。
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