Allan Holdsworth – I.O.U.(1982)

Allan Holdsworth 先生が、様々なバンドを渡り歩いた末に漸く出すことができた、ソロ作の第二弾。
因みに第一弾の Velvet Darkness は、先生に取っては納得しがたい出来だったようでしばらく販売されずにいたから、本作がまあ事実上のソロ第一作と考えても良いかもしれない。
I.O.U.とは「借用証書」の意味で、まあそのくらい先生は金に困っていたのだが、借金までして制作しマイナーレーベルからリリースしたLPアルバムが好評で、その後メジャーから再リリースされることになった。その最初のマイナーレーベル版アルバムは、ジャケットが赤ではなく黒なんだけど、僕は学生時代に中古レコード屋でこれ(黒ジャケットLP)を入手して持っていたことがある。その後アナログプレーヤーも無くなったので、引っ越しの際についうっかり処分してしまったのだが、今思えば何と罰当たりなことをしてしまったのだろうか!
Holdsworth教の皆様におかれましては、恐らく本作あたりが最重要経典ということになるのではないだろうか。
メンバーは、Paul Williams(vo)、Gary Husband(ds)、Paul Carmichel(b) 。Gary は、McLaughlinとやったり、Level42 に参加したりと手広く稼いて活躍している、ドラム叩きながら後ろ手でキーボードを弾くおバカ特技を有するバカテクドラマー。

Tr.1 The Things You See (When You Haven’t Got Your Gun)
何と先生は嬉しそうに元気良く弾いていることか!
この曲は1979年に先生が Gordon Beck と共演したアルバムのタイトル曲なので、聞き比べると面白い。79年の方はアコギとピアノで、小粋なパリのお散歩みたいな(何じゃそりゃ)軽快な演奏を聞かせてくれる。一方、本作では電気トリオに伸びやかな声のvoが加わるという編成の違いもあるが、多分先生が本当にやりたかったことを実現できたからだと思うが、演奏する喜びが溢れてくるのだよ。

Tr.7 Shallow Sea
先生の専売特許(真似が難しい)であるコードソロから始まる曲。
空間系エフェクター(デジタルディレイ等)とボリュームペダルを用いて、アタックの無いストリングスみたいな音響を作り出す。その後時代を経てとある日本の有名エフェクターメーカーが先生直々の監修のもと、この特殊奏法が誰にでもできる(わけではもちろんない)エフェクターを発売し、先生は「山ほどあった機材がこれ一つに収まって移動が超ラク~」と喜ばれたと聞く。
先生のコードソロは、その音色の美しさに加えて、異常な手の大きさを十分に活かした超オープンなコードと、左手のボイシングに更に右手の指を加えて半音をぶつけるテンションの使い方が特徴。この半音ぶつけは、鳴らし過ぎるとただのノイズになるのだが、時間軸的な展開の中でちょっと使う、しかもディレイにくるんで使うと、とてもドリーミーな効果を生む。

Tr.8 White Line
ああいい曲だ。
先生の曲にvoが必要なのか議論もあると聞くが、本作における Paul の起用は正しかったと思う。緊張感溢れる演奏に適度なpop感が加わり、魅力を増している。
後半の先生のソロを経て、リズム隊が盛り上がっていき、”walking slowly down that line, you’re walking slowly down that white line” と繰り返す Paul のバックで先生のギターはコードとアーミングでのバッキングに徹する。一頃恒例行事になっていた六本木ピットイン来日公演でも、いつも演奏してくれた名曲。今聞いても、いつ聞いても、変わらぬ感動を覚える。やっぱ先生が楽しそうなんだよね。

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