Richie Kotzen – The Inner Galactic Fusion Experience(1995)

Jeff Berlin 温故知新シリーズ外伝(?)、ギタリスト Richie Kotzen のソロ作のご紹介。
お仕事として呼ばれた Jeff Berlin の活躍(?)に焦点をあててレビューしてみる。
まず最初に一言注意しておくが、Jeff Berlin 目当てに本作を購入することはオススメできない。
僕のように、自分が好きなミュージシャンの仕事を全部追いかけたいという奇特な人には、ある種の歴史的価値はあると思う。

さてこの Richie Kotzen という御仁も芸風が幅広い方で、認知度的にはまずシュレッディング系(超高速速弾き)として名が通っているわけだが、実は Fusion 界でも結構仕事をこなしていて、Stanley Clarke と組んだ Vertu(1999) とか良い仕事ぶりだった。
本作はアルバム名の通り何故か Fusion 大会。ソロ5作目。
Richie 自身が本気で Fusion をやりたかったのかどうかは不明だ(後述する)。
当時の Shrapnel レコードの経営方針的に、メタル・シュレッディング系の売れ行きはもう先が見えてきており、次はハードフュージョンだああみたいな感じになっていて、本作と前後して Richie Kotzen & Greg Howe なんていうカップリングでそういうノリの作品を出していた時期。

さて、本作の参加メンバーは、Richie Kotzen(g, kbd, b) / Gregg Bissoneette(ds) の二人がメイン。曲によりゲストとして Jeff Berlin(b) が加わる。
Jeff Berlin 不参加の曲の b も含めて、ds 以外のほとんどの楽器を Richie が弾いているところが聴きどころの一つ。歌も上手いし、ほんと芸達者な人だ。
ds の Gregg は、Dave Lee Ross のバンドなんかで有名だが、Rock から Fusion まで幅広くこなす才人スタジオミュージシャン。
そして Jeff Berlin はプログレ界で有名になったが、根っこは Jazz な人。この時期は Fusion 仕事がメインだったが、そろそろ Fusion に嫌気が指し Jazz 回帰が始まるそんな時代直前の作品。

Tr.1, 2 Pulse(Pt.1, Pt.2)
最初から気合の入ったハードフュージョン。
Jeff Berlin が参加。
途中、Richie がスキャットとギターでユニゾンする。いわゆるジョージベンソン風プレイ。これがカッコいいんだけど、曲の緊張感と今一つマッチしない気もする。
さて Jeff Berlin の仕事ぶりだが、いわゆるソロらしいソロパートは無い。しかし、弾きまくる Richie の後ろで絶妙に高速なオブリガードを入れたり、ユニゾンしたり、存在感はたっぷり。まさに職人の仕事ぶり。

Tr.3 Dose
この曲も Jeff Berlin 参加。
ギタリストのソロ・アルバムなので当然ではあるが、Richie はハードに歪ませたトーンで終始超高速に弾きまくり。後半ちょっとだけ、軽いディストーションでさらっと弾く箇所があり、もう少しこの感じでやっていただけるとより Fusion っぽいのだけどね。
Gregg の長いドラムソロが終わって、ブリッジを挟み、4:20頃から Jeff Berlin のとっても短いソロ。おいおい、折角ゲストでお呼びしたのだから、もっと弾かせて差し上げろ~。

Tr.5 Ultramatic
構成を複雑に練り上げすぎて、今ひとつまとまりを失ってしまった感がある曲。
Gregg のドラムスがとても元気良し。一方、Jeff Berlin は比較的単調なバッキングに終始。常に真摯に仕事に取り組む Jeff にしては珍しく、どうにもやる気が感じられない演奏。最初聴いたときは、クレジットの誤りで Richie が弾いているのかとも思ったが、音色は紛れもなく Jeff Berlin の音。

Tr.6 Trick
メインの二人だけで作曲・演奏。
b も Richie が弾いている。これがなかなか上手。g との高速ユニゾンも息がピッタリ。本人同士だからねえ。

Tr.9 Tramp
ついに ds まで Richie が自分で叩いて(つまり楽器は全部自分)、ジミヘン風のブルーズロックだ。ボーカルも Richie で、Deanna がバックボーカルとして参加。
どこを取っても全く Fusion では無いんだよ、これが。
そしてこれがとても良い曲なのだ。
アルバムの最後の方に直球Rockを入れてくるあたり、結局 Richie 自身はこういうのをやりたいのであって、Fusion はあくまでもレーベルの経営方針に従っただけなんだろうと思わせるのだよね。
そんな仕事に付き合わされた Jeff Berlin も難儀だったね。

Tr.10 Last Words
またまたガラッと雰囲気が変わって、アコギを弾きながら歌うバラッド。
この曲でもジョージベンソン風スキャットユニゾンプレイをやっていて、曲調にぴったり。
こうして最後は Richie らしく、Rock ギタリストらしく、爽やかに終わる。
色々と罪深いアルバムだな。

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