Mark Isham – Vapor Drawings(1983)

とっくにレビューを書いたものと思い込んでいたが未だだった愛聴盤の一つをご紹介。
Mark Isham はトランペッターでありシンセ弾き。映画音楽の世界でも活躍中。
本作のレーベルは Windham Hill だけど、本作は当該レーベルが世界的に大流行させた所謂「ニュー・エイジ」音楽とは方向性がかなり異なり、電子音とミニマルなフレージングに装飾されたチルアウト用のハウスミュージックみたいな感じ。同じハウス+トランペットではあるが Nils Petter Molvaer みたいなやさぐれて凶暴な方向には行かず、レーベルの売りである「ヒーリング感」や「健康的自然感」みたいなカラーはしっかりと出しているな。
僕が本作を購入したのは、Tr.3 をどこかで耳にして惚れ込んだから。元気が出ないときに聞くと効き目抜群なのでおすすめ。
さて、本作の参加ミュージシャンだが、Mark Isham(tp, syn, flugelhorn, piano, sax, el.perc) と Peter Van Hooke(el.perc, snare) の2名のみ。クレジットの通り、ほとんどの楽器を Mark が自分で演奏しているのだが、Peter さんのスネアドラムの生命力溢れる存在感が大変に素晴らしい。やはり餅は餅屋(太鼓くらい俺にだって叩けると安易に考えがちだが、プロの打楽器奏者の出音はもう次元が異なるの意)だ。

Tr.1 Many China
シンセの電子音と生音のトランペットがうまいこと溶け合って響く。その背後を電子パーカッションが支えているのだが、その響きはあくまでもアコースティック。
曲調は、短編映画用の音楽みたいな、何かの映像を想起させるような印象。

Tr.2 Sympathy and Acknowledgement
ちょっとジャン・ミッシェル・ジャールを思い出すようなシンセのシーケンサフレーズが多数重なり、酩酊感強めの曲調になっていく。とは言え、ヤクでトリップみたいな感じには決してならないところはさすがに Windham Hill だ。
tp も perc も無しで、シンセだけで8分強続くので、こういうのを聴き慣れていない人には少々辛いかな。

Tr.3 On The Threshold of Liberty
さてお待ちかね。この曲が素晴らしいのだ。
ちょっと雅楽も思わせる神秘的なイントロに続いて、小さく鳴るトランペットのファンファーレ。
続いてボレロのようなリズムをシンセとスネアが刻み、その上に聴く者の感情を鷲掴みにするようなパッド音の切ないコード進行と、抑えたトランペットの響き。
曲の進行に連れてドラム音が次第に大きくなっていくが、リズムはあくまでも変化せず、極度な抑制が効いたまま。つまりボレロそのものだ。そのボレロのリズムの上で、何やらドラマチックなコードが進行し、そして戦い終わって疲れて眠る兵士を優しくいたわるようなトランペットの高らかなる吹奏。
いつ、何度聴いても、変わらぬ高揚感を与えてくれる名曲。

Tr.7 Men Before the Mirror
トランペットの多重録音によるイントロから始まる。
この曲も、ジャン・ミッシェル・ジャール風。
後半、アタックの効いた三味線みたいな撥弦楽器風の音が聴こえて楽しいのだが、これはシンセだろうな。

Tr.9 In the Blue Distance
Mark のピアノでしっとりと始まる。
ピアノ+ブラスっぽいパッド音+トランペットで畳み掛ける、印象的で力強いフレーズ。
そして静かに去っていく。

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