Trevor Rabin – Can’t Look Away(1989)

お気に入りの1枚をご紹介。
Trevor Rabin は、南アフリカ出身の才人。年をとった今でも渋いイケメンだとは思うが、若い頃の写真を見ると、いわゆるアイドル顔。そのルックスを全面的に使い倒して、若い頃はアイドルロックバンドをやっていたらしい。
彼が30歳目前の頃、停滞期(というより活動停止)に陥っていた Yes の大ボス Chris Squire から誘われて Cinema という新バンドを結成。デビューアルバム制作がいい感じに進んでいたところに、Yes の無邪気な天使 John Anderson がゲスト参加し、そこから何がどうなったのか良くわからないのだが、完成したアルバムは何故か Yes の新作 “90125” としてリリースされちゃうのだ。
結局 Cinema は消滅し幻のバンドとなる。
Yes メンバーのアイデアが煮詰まっていたところに、フレッシュな若者 Trevor の才気溢れるサウンドが新鮮に響いて、「お!これは売れるじゃん」と John 及び Chris が判断した・・・のかもね。で、まるっと乗っ取っちまったわけだ。恐ろしや。
その結果、ご存知 Lonely Heart のメガヒットで、Yes はマニア向けプログレバンドの枠を乗り越え、お茶の間のじいちゃん、ばあちゃんにまで広く知られる存在となる。(ほんと?)
その後の Yes は、90125 の路線を踏襲(二番煎じ)した Big Generator(1987) をリリースした後、またまた停滞期に入って空中分解するのだが、ちょうどその頃に Trevor がソロで制作したのが本作だ。
因みに、Trevor が Yes に(実際は Cinema に)参加する少し前に、ソロ作 Wolf(1981) をリリースしていて、これも中々素晴らしい出来。これらの作品 Wolf – 90125 – Can’t Look Away を通して聴いてみると、Trevor のやっていることはほとんど一貫していて、ブレが無い。またこうして通しで聴いてみると、Yes の 90125 は Trevor Rabin が作り出した音楽を、Trevor Horn が音作り面で強力にプロデュースし、そこに Yes の重鎮達をトッピングしたもの・・・とか書いたら夜道で刺されるかな。

前置きが長くなったが、本作の参加ミュージシャンについて。実は ds 以外の楽器は「全て」 Trevor が演奏している。いわゆるマルチミュージシャンって奴だ。そしてメイン vo も Trevor だ。従って、参加ミュージシャンは、曲毎に異なるドラマーとバックvoのみ。あまりギャラを払わなくて良いから、制作費が安上がりだね~。

Tr.1 I Can’t Look Away
アルバムタイトル曲。ds は Lou Molino 。
イントロの g の音が素晴らしい。音色を聴いただけで、Trevor のサウンドだなとわかる。
スペイシーなイントロの後、ゆったりと雄大な曲調に。このノリは、やはり南アフリカ生まれならではなのだろう。
プログレでは無く、上質でポップなハードロック。

Tr.3 Sorrow(Your Heart)
ds は Lou Molino 。他にバックvo多数参加。Trevor と共同プロデュースしている Bob Ezrin まで一緒に歌っている模様。
アフリカを感じる美しく楽しい曲。
ドラムのサウンド、時々挿入されるシンセサウンド等に、Yes で(というより Trevor Horn との作業から)学んだ音作りが感じられるよ。

Tr.4 Cover Up
ds に Yes の Alan White が参加。で、”Basil” と名付けられた Drum Machine と共演している。
この偉大な Alan White 御大は、サンプラー音源に積極的に自分のサウンドを提供したことで有名。昔気質のドラマーの中には、自分が叩いた音を音源として使われて、切り貼りされることをとても嫌がる向きもあった。でも、Alan は未来を見通していたのか、単に仕事を選ばないだけなのか不明なのだが、数々のドラム音源データ制作に参画し、結局は様々なジャンルの音楽で彼のドラムサウンドが聴けるのだよ。それもミュージシャンとしての見事な生き様じゃないかな。
この曲で、Alan がリアルに叩いているのか、それともサンプリングしてマシンが叩いているのかは不明。

Tr.7 Eyes of Love
ゲスト ds は Denny Fongheiser 。
ギターのリフがちょっと面白い、カラッと明るいロック。そうだなあ Journey とかそういう感じか。

Tr.10 Sludge
ds は Lou Molino 。
比較的おおらかにゆったりとした曲調で進んできたが、この曲でガラッと雰囲気が変わる。ギターテクニック見せびらかしまくり、絢爛豪華でサイバーな小曲。1:02からのブチ切れたソロが凄まじい。Trevor は、トータルなミュージシャンとしてのマインドが先にあるので、ライブ等でもギタリスト的なこれ見よがしのプレイはそんなにしない人なのだが、気合入れて弾くと凄まじく上手。

Tr.12 The Cape
ゲスト無し。一人で全部作って弾いている。
アルバム最後の曲は、ロックというよりほぼ映画音楽。
そう Trevor Rabin は映画音楽の世界で大成功したのだよ。そちら方面の豊かな才能が、この曲を聴けば良くわかる。
曲の構成力、様々な感情を想起させる叙情的な曲調、印象的な音作り、そういった豊かな音楽的才能に加えて、自分一人で作曲・プログラミング・演奏・歌唱・編集・エンジニアリング・プロデュースまでできてしまうマルチな能力が、限られた予算と時間の中で産業的に制作する映画音楽の世界にマッチしているのだろうなあ。

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