Bruford – Feels Good To Me(1978)

先に One of a Kind(1979) の方を以前レビューしてしまったが、その前年にソロ名義でリリースされたのが本作。次作とほぼ同じメンバーだが紹介しよう。
Bill Bruford(ds, perc) / Jeff Berlin(b) / Allan Holdsworth(g) / Dave Stewart(kbd) / Annette Peacock(vo) の5名がベースメンバー。一部の曲で Neil Murray(b), Kenny Wheeler(flugelhorn), John Goodsall(g) がゲスト参加している。
Bill Bruford という人は、Yes、King Crimson、Gong、National Health(ちょっとだけ)、UK と英国プログレの最重要バンドを渡り歩いてきたシーンど真ん中の人なのだが、まあとにかく人付き合いが悪いと言うか人間関係に問題を抱えるタイプの人で、新たにバンドに参加してもレコードを1,2枚リリースする頃には喧嘩して飛び出す繰り返し。
1978年というのは、Bill が National Health からのパーマネントメンバー就任要請を拒んで抜け、Genesis にサポートとして参加してみたり、Rick Wakeman、John Wetton とのトリオを試行してみたり、まあそういう試行錯誤の中から、本作から始まる自身のプロジェクト Bruford と、スーパーバンド UK を立ち上げた記念すべき年であったのだ。
Bill 以外の参加メンバーについては、One of a Kind(1979) のレビューで紹介しているのでご参考まで。あそうか、Annette Peacock(vo) については紹介してなかったな。彼女は米国人だが、ロンドンに渡って名前が売れた人。歌が特別上手いわけでもなく(むしろヘタウマ)、見た目が特別美しいわけでもないのだが、何というか怪しい魅力がある。
Bruford としてのライブを撮影したDVD “Rock Goes to College” がリリースされていて、本作と次作の曲が演奏されている。Annette の雰囲気芸も堪能できるので、ご興味ある方は是非見てくだされ。オーバーオールを着てとっつぁん坊や臭が強い Dave Stewart や、若くてイケメンな Jeff Berlin も見ることができるよ。

Tr.1 Beelzebub
最初の曲からもう全開。
Bill の超細かいタムワークと Jeff の超絶技巧 b の上で、Dave のそりゃあうっとりする美しいオルガンと、Allan のこれまたうっとりする美しいレガート奏法の g が演奏される。
ひたすらうっとりしているうちに、3分強の曲はあっという間に終わってしまう。

Tr.2 Back to the Beginning
さあお待ちかね(?)の Annette 登場。まあ上手くは無いんだけど、存在感は凄い。まあ一度DVDを見てみてくださいまし。
曲は7分強と長いのだが、Annette の毒気にあてられてぼーっとしているうちに終わってしまう。

Tr.3-4 Seems Like a Lifetime Ago (Part One, Two)
ぐっと打って変わって、ムーディーなボーカルナンバー。ジャジーでソウルフル・・・なんだけど、Annette のボーカルはまあ力量不足だな。
Part Two の方は、Allan が前面に出て、次作に繋がる雰囲気。スローだが、スリリング。でも次作ほど作り込まれておらず、ラフな感じ。

Tr.5 Sample and Hold
曲名の Sample and Hold というのは、アナログシンセサイザーに付いていたある種の電子回路の名称だ。この回路には入力が2つ、出力が1つあり、トリガー入力に電圧が加わると、その瞬間に信号入力に入っている電圧値をそのまま出力に出し続ける。つまり、入力信号をサンプリングして、そのままホールドするから Sample and Hold (S&H)なのだ。これをどう使うかと言うと、最も多用されたのはノイズ発生機の出力をS&Hに繋げて、LFOの矩形波をトリガーとして入力することで、ランダムな電圧を発生することができ、これをVCOに与えるとランダムな音階を発生することができるのだ。当時効果音等に良く使われていた。宇宙人の声とかね。
余計なことを長々と書いてしまった。

Tr.6 Feels Good To Me
アルバムタイトル曲。
Dave のオルガン、シンセ、ピアノが最高に素敵。切ないメロディーの佳曲。

Tr.8 If You Can’t Stand The Heat…
不思議なリフ、Jeff の超技巧的な b フレーズ、後半ややフリーフォームになって、Allan が実に伸び伸びと g を弾きまくる。

Tr.10 Adios a la Pasada (Goodbye to the Past)
オリジナルLPでは最後の曲。後発CDではこの後に Joe Frazier がボーナスで入る。
本作では時間にまつわる曲名が多い。Tr.2 Back to the Begining、Tr.3-4 Seems Like A Lifetime Ago 等。そしてこの曲もそう。ちょっと切ない佳曲だ。
Annette がドラマチックに歌い上げる。ちょっとシャンソンぽいかな。
Allan の流麗なレガート g を挟み、曲が疾走する。
そしてまた、Annette の高らかな歌唱。すごく上手いわけではないのだけど、心を揺さぶる歌声。
再び Allan の歌うような g 。
そして曲を終結させずに敢えてフェードアウトで終わる。いやあこの余韻が何とも素晴らしい。

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