Brand X – Unorthodox Behaviour(1976)

久しぶりにこのBlogの基本(?)に戻って Jazz Rock を取り上げる。それも基本中の基本、Brand X のデビュー作だ。
僕が彼らのアルバムを初めて聴いたのは、本作リリースから2年後くらいだったと思うが、その頃普段聴いていた「わかりやすい」ロックと比べると、何とも不思議で理解しがたい音世界だった。まず全体的にこもったような音で録音されていて、聴かせたいんだか、聴かせたくないんだか良くわからない。そして、ベースがつぶやくようにボコボコ変な音を鳴らすし、鳥の声やら変なSEが意図不明で入るし、何をやりたいのか良くわからず。中には超かっこいいフュージョン曲があったり、冗談みたいな妙ちきりんな曲があったり、アルバム全体の構成も理解しがたい。そんな変なアルバムを何度か繰り返し聴いているうちに、各演奏者の超絶的な技巧や、この煙ったような湿ったような音の雰囲気にすっかり魅了されていったのだ。
当時は、Jazz 側から Rock に接近した米国の Jazz-Rock Fusion バンド(Fusion と呼んでしまうと叱られそうだが、Weather Report や Return To Forever 等のことね)の全盛期で、Brand X もそのブームを意識しての登場だったのだろうと思う。でも、Jazz の素敵な響きと Rock の華やかさを併せ持った米国発の陽性の Fusion に対して、英国の Brand X の作り出す Jazz-Rock はネクラで湿っぽい。例えて言えば、日陰でひっそりジメッと生息する隠花植物みたいなほの暗い美しさなのだ。なので、Phil Collins の名前に惹かれて買って、「コレジャナイ」と手放す方が多かったことも理解できる。かなり聞き手を選ぶ音楽だ。(わかる人にはわかるみたいな意味では無くて、ある種の精神的指向性=ネクラの遠回しな表現=を持つ人が惹かれやすいという意味)
さて、本作の参加メンバーは、Phil Collins(ds) / Percy Jones(b) / John Goodsall(g) / Robin Lumley(kbd) の4名。
Phil Collins は、皆様御存知の Genesis メンバー、後にポップシンガー&プロデューサー業で大成功した陽気なおっさん。
Percy Jones と John Goodsall は、現在も Brand X の看板を掲げて活動中の超絶技巧プレーヤーだ。
Robin Lumley は、Brand X 初期3作を支えたキーボーダーで、彼が織りなす神秘的な音世界が Brand X を特徴づけていた・・・ような気がする。
因みに、本作の邦題は「異常行為」だった。ますます買い手を選ぶよね。しかもヒプノシス作のジャケットは、ブラインドの隙間からこちらを覗く変態おじさん(?)の顔。結構怖いです。

Tr.1 Nuclear Burn
Phil の、「とっとっとととーん」というスネアとともに、Percy の不思議ちゃんなベースリフが始まる。John の控えめなカッティング g には薄っすらとフェイズシフターがかかっている。そして Robin の el.p が素敵。
1:59 頃から曲調が少し変わり、7拍子で疾走が始まる。そしてRobin の幽玄なシンセソロ。Phil のドラミングは、細かいオカズ満載の超テクニカルな演奏。当時、Rock界一上手いと言われていたな。

Tr.2 Euthanasia Waltz
これぞ名曲。邦題「安楽死のワルツ」だ。
テーマ部に漂う美と悲しみ。2:34頃からの中間パートで Percy が訥々と語りかけるようなフレットレスベースのソロ。
因みに、次作の Livestock にも本曲のライブ演奏が収録されており、超絶的に素晴らしい。ライブの方では、John のドラマチックな g ソロが聴けるが、本作ではアコギによる抑制的なバッキングに徹している。

Tr.4 Smacks of Euphoric Hysteria
LPではB面始まりの曲。
わかりやすく Rock っぽいテーマの間に、Jazzy なセッションパートが挟まる。

Tr.5 Unorthodox Behaviour
アルバムタイトル曲。もう最初からセールス狙ってないでしょ、これ。
みんなでボソボソ小さい音でセッションして、適当にタイトル付けたんでしょ。
で、何か寂しいから、鳥の声とか適当に重ねて仕上げたのね。
それにしても、何でB面2曲めのこの変な曲をアルバムタイトルにしちゃうわけ?アルバム名は Nuclear Burn で良いんじゃね?それじゃカッコつけすぎで恥ずかしいの?
ああ、本当に英国人って変だよなあ。楽しい。

Tr.6 Running on Three
キモカワイイ前曲から打って変わって、超かっこいいフュージョン。
カンタベリーミュージックにもやや近い雰囲気。
2枚め、3枚めに収録された名曲 Malaga Virgen に繋がる曲想を感じる。
John の速弾き g ソロが素晴らしい。Gary Boyle とかそんな感じだ。

Tr.7 Touch Wood
超盛り上がりの前曲からまたまた打って変わって、アコースティックで、どことなく民族音楽風味も感じる小品。うっすらと Soprano Sax が鳴っているが、ゲスト参加の Jack “Oh No, You’re Joking” Lancaster さん(クレジット通り)だ。もっと聴きたいと思わせて、フェードアウトで終わってしまう。なかなか上手いことをやるなあ。

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