Paul Motian – It Should’ve Happened a Long Time Ago(1984)

Bass Desires で Bill Frisell が大好きになり、色々と買い漁っていた頃、何とも美しく切ないジャケット画(Paulご本人撮影による粗い粒子の夕焼けの写真)と思わせぶりなアルバムタイトルに心惹かれて手にした1枚だ。従ってLPを入手したのはリリースから数年経過した80年代後半の頃だと思うが、その後しばらくしてCDで買いなおした。このジャケット画は、やはり大判のLPジャケットじゃないと今一つぐっとこないね。
メンバーは、Paul Motian(ds, perc) / Bill Frisell(g, g.synth) / Joe Lovano(ts) のトリオ。b もいなければ、p もいないミニマルな構成なのだが、3名のインタープレイが高密度なので、何かが足りない感じは全くしない。全曲 Paul の作品。作曲能力も素晴らしい。

Tr.1 It Should’ve Happened a Long Time Ago
アルバムタイトル曲。ジャケット画を見ながらこの音を聴いて、涙を浮かべずにいるのは難しい。何があったのかは知らないが、それはもう遠い昔のことだったようだ。
Joe の端正なテーマフレーズの後ろで、シンバルワークを中心に Paul がワルツのパルスを刻み、そして Bill が空間を様々な色合いで塗っていく。
Bill の g は、Joe のフレーズとシンクロしたり離れたりしつつ、空間に思い出のような残響を残していく。誰にも真似ができないサウンドだ。
先日若い2人のプレーヤーを連れて Bill が都内の某ライブハウスに登場し、この曲をやってくれたのは本当に嬉しかった。

Tr.2 Fiasco
前曲とはがらりと趣向を変えて、フリー大会だ。とは言っても、Paul も Joe も知性的、抑制的なプレイなので、暴れまわる感じはあんまりしない。そして Bill の不思議ちゃんサウンドが上に乗るので、どちらかというと Monk 的な、おもちゃ箱をひっくり返した感じになる。ニコニコしながら聴くのが良いね。

Tr.4 Introduction
LPではこの曲がB面の始まりだった。Bill の抒情的なソロ曲。Tr.1 と呼応しているのだろか、これもワルツだ。演奏終了後の余韻の取り方が凄い。泣かせるね。

Tr.5 India
Paul が打ち鳴らす様々なパーカッションが異国情緒たっぷり。そして Joe と Bill のユニゾンが、まるでゆったりとたゆたうインドの大河のようだ。僕はこの曲を聴くたび、きれいな布等で着飾った象がインドの大通りをゆっくり行進する様を思い浮かべる。そして要所で Paul が鳴らすゴング(銅鑼)が、絶妙にこの奇妙な行進を前に前に誘うのだ。

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