Big Big Train – Grand Tour(2019)

Big Big Train の新作が届いた。とりあえずのレビューを書いてみるが、聴きこみが足りていないので、後日大幅に修正するかもしれず。
あちらこちらにタイトルの意味が書かれているが、Grand Tour とは、英国から欧州各地へ見聞を深めるために出かけること。あくまでも英国が中心だ。この度のBrexitでも、「欧州が英国から切り離される」とか言っている人たちなのでね。
これまでの Big Big Train のアルバムコンセプトは、英国の風物(産業、文化、自然)に視点が置かれていたが、今回は欧州に視点を拡げた形だ。政治情勢を意識したのか、気持ちを切り替えただけなのか、その動機は不明。なお、欧州と書いてはいるが、聴いていただければわかるように、行先は事実上イタリア(と、ちょっとだけ宇宙空間)だけだ。イタリアをくるくると回って、ジブラルタルを越えて、帰ってくる。次回作で他の国にも訪れるのかどうか乞うご期待。
一聴して、音楽的には大変すばらしい出来なのだが、ジャケットがどうもいただけない。2015年以降の彼らの作品のジャケット画を描いてきた Sarah Louise Ewing (David Longdonのパートナー!)の作品らしいが、省略の仕方が中途半端で、単なるヘタ絵かマンガにしか見えないなあ。

Tr.1 Novum Organum
オープニングナンバーは、英国の哲学者フランシス・ベーコンの著作名を曲名にしたのではないかと。科学的知識、客観的観察、そして帰納法によって世界を正しく理解することを説く著作だ。その通りだよ、英国の皆さん、今こそしっかりしてくださいね。
ガムランみたいな音とピアノで優しく爽やかに曲がスタートする。科学と芸術を求めて、船が旅立つ。Greg Spawton の作品。

Tr.2 Alive
David Longdon による元気で明るい曲だ。
満帆に風をはらんで、船は進む。美に満ち溢れたこの世界を旅することこそ生きることだと歌う。生命感に溢れるポジティブで素敵な曲だ。

Tr.4 Roman Stone
5部構成で、帝国の勃興から滅亡、そして遺跡について歌う。
一つ前の Tr.3 で Florence(フィレンツェ)に到着して、ダビンチについて歌っているので、そこから Roma まで移動してきたわけだ。
今回のアルバムには、10分を超えるマルチパート編成の曲が3曲入っていて、その最初となる。ブラスとストリングスを豪華に導入していて、とても豊かで気持ち良い曲だ。
この後、Tr.5 Pantheon (ローマのパンテオン遺跡)、Tr.6 Theodora in Green and Gold (Ravenna にある東ローマ帝国妃の肖像モザイク)と、まだしばらくイタリア国内をうろうろする。

Tr.7 Ariel
英国の詩人 Percy Bysshe Shelley なる人が、イタリアにて帆船(Ariel号)で暴風雨に襲われ遭難した史実を踏まえた作品らしい。8パートから成る David Longdon の大作。ドラマティックだが古典のように重々しい。

Tr.8 Voyager
遭難の危機を乗り越え(?)、再び大洋に乗り出した。全7パートから成る Greg Spawton の大作。パート3は Pillars of Hercules 、つまりジブラルタル海峡まで来たよ。
他の曲も含めて、今回は汽車が走ったりしないので、どちらかというとゆったりした、大波に乗るようなリズムの曲が多い。
パート5での Dave の g と、Nick の ds のインタープレイが凄くプログレしている。やはりこういうテクニカルな部分があると楽しいな。
で、曲名の Voyager には、あの有名な外宇宙探査衛星をかけてある。パート6では、星間の空虚な空間を、パート7では、(新たな?)故郷への帰還を歌う。とても感動的だ。

Tr.9 Homesong
地中海を出て、太陽系外に行ったはずだが、最後はやっぱり英国に帰ってきた。
緑の丘を野兎が駆け、お城のそばでお茶を飲みながら、やっぱりウチはいいねえと景色を眺めるご一行。
実に英国人の憎めないところなんだが、まあこういう気質なのね。

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