Sons of Apollo – Psychotic Symphony(2017)

昨年(2018年9月)に来日して、圧巻のライブを見せてくれた Sons of Apollo、プログレ・メタルに分類されている場合が多いが、まあそれほどプログレ成分は無く、敢えて勝手なジャンル分けをするならテクニカル変態メタルだ。その変態成分の大半は、主に一名のギタリスト(後述)がもたらしているわけだが。
メンバーは、Mike Portnoy(ds)、Billy Sheehan(b)、Derek Sherinian(kbd)、Ron “Bumblefoot” Thal(g)、Jeff Scott Soto(vo) の超強力な5名。Mike と Billy は The Winery Dogs も営業中、Mike と Derek は、Dream Theater 脱退組繋がり、Ron と Jeff の加入経緯はわからん。
Mike が並行営業中の The Winery Dogs がトリオ編成のシンプルかつクラシカルなロックを追求しているのに対して、Sons of Apollo は煌びやかで豪華な現代的ロック。その違いは、Derek のSFチックなキーボードと、Ron の変態チックなギターからもたらされるのだろう。
で、Ron “Bumblefoot” Thal の話になるわけだが、Mike Varney のところから出てきてたちまちのうちに一部のシュレッディング好き好事家の間で神格化され、何故か Guns N Roses に加入し(まあ前任者が Buckethead だったから変態さん路線継承なのだが)、ちょっと置いてこのバンドという流れだ、乱暴にまとめればだが。
さて、その Ron のギターはダブルネックになっていて、下がアーム無しの6弦、上がフレットレス!!!の6弦になっている。もうこれだけで変態ぶりがわかる・・・かな。彼がアームを使わない理由は、フレットレスで充分代用できるからだそうだよ。このフレットレスギターだけど、曲の一部で効果音的に使う人は以前からもいたが、これだけで何でも弾いちゃう人は彼をおいて他に知らない。Ron が凄いのは、単音奏法だけでなくコードもごく普通にきれいに鳴らすことができて、しかもその和声をきれいに維持したまま並行移動(グリッサンド)したりする。普通のギタリストは、指板上の2つのフレットの間の適当なところをだいたい押さえれば正確な音程が出ることに慣らされてしまっているので、バイオリンやチェロのようにフレットが無い楽器を持たされると正しい音程がなかなか出せない。それと、コードを押さえた左手の指の形のままで単純に指板上を並行にずらしても、和声は崩れるのね、細かいこと言うと。まあ書きたかったことは、それほど難しい楽器を完全に弾きこなしている恐ろしいほどの演奏力を Ron は持っていて、でも1995年の彼のソロアルバム The Adventures of Bumblefoot は、まるで Frank Zappa か、Steeve Vai の Flex-Ableかというような変態お馬鹿サウンド満載だったし、Sons of Apoll のライブでも、ピンクパンサーのテーマとかを嬉々として弾きつつ漫談したり、彼は真に愛すべき変態・変人ギタリストなのだよ。
あとちょっとだけ Jeff Scotto Soto にもふれておくと、Yngwie のところや、Neal Schon のところでキャリアを積んできたらしい。太く豊かな声を持ち、ボイスコントロールも完璧で長丁場にも崩れない。ライブでは Freddie Mercury の Prophet’s Song を披露してくれたが、これがお見事。
さて、長くなってしまったので、曲紹介は簡単にしよう。

Tr.2 Coming Home
アルバム最初の曲 God of the Sun は、少々けれん味が過ぎて冗長なので、むしろこの2曲目が本アルバムの顔に相応しいと思う。Jeff の vo がパワフルで良い味を出している。Derek の kbd と Ron の g は控えめだが効果的な使い方。3:00あたりからのボリューム奏法&ディレイがちょっとアイリッシュっぽくて、面白い。

Tr.4 Labyrinth
本アルバムの大半の曲は Derek が書いているのだが、この曲は Ron が書いたようだ。そうか、こういう普通のロックも書けるんだね~とほっこり聞いているうちに、後半になってくると次第にテクニカル成分が増え、変拍子が入り、曲名通り迷宮に入っていく。Derek のまるで g みたいな kbd ソロ、Ron のソロがあり、何だかとても正しく起承転結を踏まえて曲が終始する。これはなかなかの名曲なんじゃないの、Ron 師匠。

Tr.5 Alive
ちょっと昔の商業的ロックを思い出すような美メロ、ハーモニーで彩られたちょっと切ない佳曲。3:15あたりから、フレットレスを効果的に使った Ron の美しいソロ。

Tr.8 Divine Addiction
出だしはハードにディストーションをかけたハモンド風の音。要するに Deep Purple 風味だ。その後ちょっと中東風のストリングス的サウンドが加わり、要するに Zep の Kashmir だ。 比較的購買力ありそうな 特定年齢層を狙う Derek の露骨な営業戦略なのか。まあわかっていても喜んで聞いてしまうんだからしょうがないや。ああいい曲だ。

Tr.9 Opus Maximus
超大作の意味かな。Kansas に Magnum Opus ってのがあったな。
10分を超えるインストナンバー。テクニカルてんこ盛り。キッズ向け営業という側面もあるかと思うが、むしろ Mike と Derek がちょっとだけ Dream Theater ごっこをやりたかったのかなとも思う。途中ちょっとだけ Trans Atlantic 風味も挟んで、dr が疾走し、kbd/g/bの超高速ユニゾンがあり、ron の怪しいソロがあり、そして Derek が書いた曲だけにきっちり作られたエンディングで見事に終始する。

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